研究課題/領域番号 |
15K21222
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田原 淳士 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (50713145)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 鉄 / ケイ素 / アルケンの水素化 / 貴金属代替反応 / 計算科学 / 金属-配位子の協同作用 |
研究実績の概要 |
本申請課題では、鉄やコバルト等のベースメタル (卑金属) と、ケイ素やホウ素といった陽性元素 (半金属) による協同作用を利用した貴金属代替反応の開発を目的としている。次年度は、初年度までに達成された鉄‐ケイ素結合を有する鉄錯体を用いたアルケンの水素化に関する機構研究に注目し、その反応機構解明のための計算科学に取り組んだ。まず、触媒前駆体である鉄錯体のX線構造解析では明らかとされていなかった水素原子の位置について、計算科学を用いて予測したところ、通常のη-H-Si配位子としてではなく、M-Si結合とM-H結合の二次的な相互作用によって安定化されていることが示唆された。これらの予測は実験から得られる値と矛盾しない結果となった。また、アルケンの水素化の反応機構について計算した結果、基質である水素-水素結合が、鉄中心金属上の酸化的付加ではなく、鉄-ケイ素結合の協同作用によって切断される経路が非常に低エネルギーで進行することが明らかとなった。本成果は J. Org. Chem. 誌にて発表した。 また、金属-ケイ素結合による水素-水素結合の活性化について、鉄以外の金属や、活性種の幾何異性体についても同様に計算したところ、いずれも低エネルギーで結合切断が進行する様子が観察され、上記に示した成果が、金属の種類や配位子の位置関係によらず極めて一般性の高い概念であることが示された。本成果は、Bull. Chem. Soc. Jpn. 誌にて発表し、BCSJ賞を受賞した。 またこれらの成果は、シンガポールおよびアメリカでの2件の招待講演を通じて、国際的にアピールすることに成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度では卑金属と半金属の協同作用を利用して、計画書に記載していたアルケンの水素化のみならず、アルケンのヒドロシリル化に有効な触媒系を開発することに成功した。さらに次年度(本年度)では、実験に加え、計算科学を用いた理論研究によって、反応機構研究の詳細をの整理を、それぞれ系統的に整理することができた。これらの成果は、鉄とケイ素という組み合わせに限定されるものではなく、異なる金属おいても適応可能な一般的な概念であることが証明されたという点で高く評価でき、区分(1)を選定した。 更に、本概念を用いて、一般的に水素化が困難とされる四置換アルケンの水素化を鉄触媒を用いて達成しており、理論研究と交えて現在論文としてまとめている最中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの2年間で達成した卑金属-半金属の協同作用による基質活性化の概念は非常に一般性が高いことから、金属の種類のみならず、配位子の種類や、標的とする基質の種類についても幅広く展開する価値があるものと考えられる。事業期間の延長を申請することで、計画書では挑戦的課題として位置づけた炭素-水素結合の活性化に着手する。また、実験と理論の融合によって、本研究成果の持つ学術的な意義について系統的に評価することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は計画書内で予定していた実験に加え、計算科学を用いた理論研究に大きく尽力した。その結果、BCSJ賞受賞論文を含む学術論文の発表に加え、シンガポール、アメリカでの国際シンポジウム内での招待講演を含む学会発表により、国際的に成果を発信することに成功した。これらの過程で、実験のみならず、計算科学による機構研究に研究時間を費やすことで、予定よりも試薬購入代などの研究費の使用額を抑えることができたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には、挑戦的課題として位置づけられている炭素-水素結合について、卑金属と半金属の協同作用による活性化を試みる。半金属を配位子に含む卑金属錯体の合成および反応性の検討に加え、金属塩と配位子、半金属試薬を用いた活性種系内発生による分子変換反応の開発に取り組む。
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