研究課題/領域番号 |
15K21229
|
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
濱崎 宏則 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 准教授 (20617295)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 水資源管理 / カンボジア / ガバナンス / 灌漑用水管理 / ステークホルダー分析 / SWOT分析 |
研究実績の概要 |
1. 理論の追究(関連文献のレビュー)に関する研究実績 カンボジアおよび一般的な水資源管理とガバナンス研究に関する文献を収集し,レビューした.この研究からわかってきたことは,公的セクター(政府・行政)と私的セクター(NGOや市民組織)をつなぐような共的組織が,存在しないかもしくは十分に機能していないことが原因で,水資源管理のガバナンスが改善されない,という問題が,国・地域を問わずに存在するという点である.例えばカンボジアでは,世界銀行が推し進めてきた参加型灌漑管理の下で農家による水利用委員会が組織され,水利費の徴収や水路の維持・管理を通常業務として行っているが,実態としては政府からトップダウン指示された業務をこなしているにすぎず,また水利費の徴収率も低迷していて,十分に給水できていない.文献のレビューを通して,水資源管理のガバナンスにおいては,灌漑用水管理における水利組織のような共的組織が大きな役割を担うのではないか,という仮説の設定に至ったことは,今後のステークホルダー・マッピングの研究遂行において重要な点である.それに加えて,共的組織の役割の重要性を見出すことができれば,水資源管理のガバナンス改善のための方策を検討する上で大変意義のある研究成果となることが期待される.
2. 望ましい協力関係の追究(SWOT分析)に関する研究実績 今年度はカンボジアでの現地調査を3度行い,研究実績につながる成果として,「誰がステークホルダーとなりうるか」を特定するステークホルダー分析を行った.その結果,水資源・気象省,農林水産省,県レベルの地方自治体(省),市町村レベルの自治体(コミューン),水利組織,ローカルNGOをステークホルダーとして特定することができた.また,この結果をふまえてそれぞれのステークホルダーにインタビュー調査を行い,SWOT分析に必要な情報を収集することができた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度に予定していた研究計画のうち,「2. 望ましい協力関係の追究(SWOT分析)」の進捗がやや遅れている.その理由として,1点目に当初想定したほど本研究へのエフォートが確保できなかったこと,2点目にステークホルダーに対するインタビュー調査において,とくに公官庁・自治体の担当者との日程調整に,想定していた以上の時間がかかってしまったこと,の大きく2点が挙げられる. 1点目については,平成27年度に新しく別の共同研究プロジェクトに携わることになったことが大きな理由である.この共同研究プロジェクトに一定のエフォートを割り当てざるを得なくなってしまったため,本研究だけでなくそれ以外(例えば,所属機関の通常業務)も含めて,全体的に業務時間が減ることとなってしまった. 2点目の主な理由は,インタビュー調査の依頼に対して,とりわけ公官庁・自治体からの回答が遅かったことが挙げられる.カンボジアにおける行政の対応の遅さは本研究を始める以前からよく把握しており,今回の調査にあたっても,訪問予定日の2ヵ月ほど前から連絡・調整を開始していた.しかしながら,いくつかの官公庁・自治体からのインタビュー可能日時に関する回答がかなり遅れたために,渡航・調査日程自体を延期することを余儀なくされるといった事態が生じた. このような研究の遅滞について,遅れの程度はそれほどではなく,また,以上のような原因についても既に対応が済んでいるため,平成28年度には挽回できるものと考えている.まず1点目のエフォートに関しては,従事している共同研究プロジェクトに割く時間を削減する対応を既に決定した.また2点目についても,平成27年度のインタビュー時に,以後の研究・調査に協力していただける旨の約束をとりつけてきている.
|
今後の研究の推進方策 |
基本的には当初の予定したとおりに平成28年度の研究計画を実施していくものとする. 1. 理論の追究(理論の精緻化):平成27年度の研究成果をふまえ,水資源管理やガバナンス研究の専門家を招聘し,3ヶ月に1回程度の割合で研究会を開催する.研究会では,代表者が水資源管理のガバナンスに関してまとめた成果を報告し,その内容について招聘者や他の参加者と議論を交わすことで,本研究における「望ましい水資源管理のガバナンス」の理論的精緻化を図ることを到達目標とする.またこれ以外にも,国内外における学会報告の機会を積極的に活用し,幅広い研究者との議論・意見交換を通して,水資源管理ガバナンス理論の一般化を目指す. 2. 望ましい協力関係の追究(ステークホルダーの関係性の可視化):平成27年度に実施したインタビュー調査をもとに,それぞれのステークホルダーについてSWOT分析のマトリックスを作成する.作成したマトリックスを解析して,例えば,あるステークホルダーのもつ弱みを他の強みで補完したり,協働することによって相乗効果が期待できるような関係性を探ることで,ステークホルダー間の望ましい協力関係を図示することを目標とする.その際には,1.の知見を活用する. 3. 実現可能性の追究(実行可能な政策ビジョンの提示):上記2.で検討したステークホルダーの協力関係について,実際に実現できるかどうか,またガバナンスの強化に資するかどうかの検証が必要となる.そこで,実効性のある政策ビジョンの提示のために,実際に政策決定に関わっているステークホルダーに参加を依頼してワークショップを開催し,2.で作成した協力関係の構築が実際に可能かどうかを,当事者同士で検討してもらう.その後,ワークショップを通じて導き出した実効性のある望ましい協力関係について,その実現のために求められる施策を検討し,政策ビジョンをまとめることが目標である
|