【問題と目的】過敏性腸症候群(以下IBS)は,心理社会的ストレスによって発症もしくは増悪する心身症である。IBSの病態生理は,脳機能異常と消化管機能異常が相互関連することによる脳腸相関の異常と考えられている。これまでの脳機能研究により,眼窩前頭皮質の活動が,IBS者の高不安とIBS重症度に関連することが示唆された。本研究では,アイオワギャンブリング課題(以下IGT)を用いて,IBS有症状者の眼窩前頭皮質の報酬予測機能を測定するとともに,課題前後の唾液中ストレスホルモンの変化について検討した。 【方 法】大学生を対象に調査用紙を配布し,実験協力者を募った。その結果,IBS有症状者15名,健常者10名が対象となった。調査項目は,年齢,性別,IBS重症度,Rome III診断基準であった。実験場面においては,IGTの他に,検査の前後およびフォローアップ時に唾液中ストレスホルモン(以下S-IgA)を測定した。 【結果と考察】本研究の結果,IBS群は,健常者群と比較して,IGT前の唾液中S-IgA濃度が有意に高かった。IGTの成績において,両群に有意な差は認められなかった。健常者群のみ,IGT前後にS-IgA濃度が高まった。一方で,IBS群のみIGT前からフォローアップ時のS-IgA濃度が低下した。また、IBS群のみポストベンション時からフォローアップ時において有意にS-IgA濃度が低下した。本研究の結果から,IBS群は,高ストレスの維持によって,報酬予測機能が保たれている可能性があることが示唆された。
|