研究課題
1)各種消化管癌臨床症例における光線力学的診断(PDD)の有用性検討先行研究の結果も含め、早期胃癌においては23病変中19病変で赤色蛍光が視認され、10mm以下の小病変の同定も可能であることが明らかとなった。拡大内視鏡観察ともよく一致する結果であった。しかし、PDD用の専用プローブのレーザー出力が弱く、暗いために早期胃癌の視認性が不十分であることは問題として明らかになった。また、未分化癌のPDD発光が不良であることがわかった。食道癌においては、タラポルフィリンナトリウムによる光線力学療法(PDT)が2015年5月に遺残再発食道癌に対して保険適応となった背景から、診断後そのまま治療に応用できる臨床的利点を考え、光感受性物質は5-ALAだけでなくタラポルフィリンナトリウムによるPDDが実現すれば、より有用となる可能性を考えた。そこで、まずタラポルフィリンナトリウムによるPDTを行うために、人的・物的な環境整備を行った。現在、当院はPDT実施可能施設となっており、実際、当院でのPDT治療を開始することができた。2)癌の分化度によるPDD蛍光差異の原因についての検討前述の如く、早期胃癌でも未分化癌ではPDD発光が不良であった原因を明らかにするために、PDDを行った早期胃癌症例の内視鏡的切除治療後の組織標本を用いて、5-ALAの代謝経路における代謝酵素PEPT-1、ABCG-2の発現を免疫組織学的手法を用いて検討した。未分化癌と比較し、高分化癌においてPEPT-1が高発現であり、癌の分化度による代謝酵素の組織発現差異がPDD蛍光に影響していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
各種消化管癌臨床症例におけるPDDの有効性検討においては、早期胃癌について、5-ALAによるPDDが有用であること、さらに組織型・分化度によるPDDの有用性に差異があることもわかった。また、癌の分化度によりPDD蛍光の差異が生じる原因について、光感受性物質の代謝酵素発現量が影響していることも検討することができた。食道癌においては、当初の5-ALAによる検討に加えて、治療へのつながりを見据えて、タラポルフィリンナトリウムによるPDDを検討しており、当初の研究計画よりも発展した内容としている。
1)早期胃癌におけるPDDの蛍光が弱く視認性が不十分である問題に対して、専用プローブの技術的改良により高出力となり、蛍光強度を上げる予定である。その後、胃癌症例のPDD視認性が向上するか追加検討する。下部消化管疾患(潰瘍性大腸炎、大腸癌)の臨床症例におけるPDDの有用性についても、胃癌・食道癌の検討と同様の手法で症例集積する。食道癌については、光感受性物質として、5-ALAとタラポルフィリンナトリウムの両者で有用性を検討したい。2)PDD蛍光が癌の分化度により差異が生じる原因について、代謝経路における他の代謝酵素の発現異常についても免疫組織学的手法やWestern blotなどを用いて追加検討する。
早期胃癌におけるPDDの検討は、先行研究からの継続であったため、物品費・試薬類は高額にならなかった。ただし、後述のように、次年度のほうが経費が必要と予想され、次年度へ計上したい。
潰瘍性大腸炎、大腸癌、食道癌の検討のため、新たに光感受性物質やPDTレーザープローブの購入を予定している。光感受性物質の代謝経路における代謝酵素の癌の組織型・分化度別の発現差異についても、免疫組織学的手法のほかに、定量化のためにWestern blotやreal time PCRなどを追加する予定であるため、試薬購入を予定している。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件)
G.I.Reasearch
巻: 23(4) ページ: 323-331
Photodiagnosis and Photodynamic Therapy
巻: 12(2) ページ: 201-208
10.1016/j.pdpdt.2015.03.006