本研究は、腹部大動脈瘤患者の検体や大動脈瘤モデルマウスを分子生物学的手法を用いて解析することにより、大動脈瘤発生から拡大に至るメカニズムをさらに詳細に解明することで、肥満病態や動脈硬化、癌における基盤病態として注目される「慢性炎症」の重要な 鍵因子であるAngiopoietin-like protein 2(Angptl2)を、大動脈瘤径拡大予防治療標的として臨床応用するための研究基盤を確立することを目的として行った。 これまで大動脈血管壁の構造破壊から、血管壁の脆弱化、瘤化に最も大きな役割を果たすMMP-9の発現制御をAngptl2が行っていることに加え、血管内皮におけるAngptl2発現上昇によって動脈硬化の進展が促進されることを明らかにしてきたが、今回の研究期間においては大動脈瘤モデルマウスを用いて、大動脈瘤病態におけるAngptl2の発現制御機構についてさらに詳細な解析を行った。具体的にはニコチン投与による大動脈瘤モデルマウスの血管壁を経時的に採取し、Angptl2の発現と関連するmicroRNAの発現変化についてリアルタイムPCR法を用いた解析をおこない検討した。発現制御につながるmicroRNAを同定するまでには至らなかったもののAngptl2の発現と相関するmicroRNAの候補は絞ることができており、引き続き研究を進めていく必要がある。またヒト大動脈瘤患者血清中のAngptl2濃度をELISA法にて測定し、大動脈瘤径および喫煙歴その他動脈硬化関連因子との相関についての解析を行なった。サンプル数の関係から統計学的有意差を示すまでには至っていないが相関する傾向は認めており対象数を増やしてさらなる解析が必要である。
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