本研究の目的は、地方における子どもの貧困実態とその支援上の課題について実証的に明らかにすることである。そのために、地方都市A県を事例に、既存データの再分析や、A県内において生活困窮世帯への支援活動を行っている各分野の支援者、行政・学校・福祉関係者へのインタビュー調査を行った。研究成果については、9月に名古屋大学にて行われた第68回日本教育社会学会、12月に宮崎大学にて行われた「子どもの貧困と教育フォーラム2016」等で報告を行った。 調査結果の分析を通じて、明らかになったのは以下の諸点である。 第一に、A県内では、2008年以降急速に子ども貧困状況が深刻化。ただ、経済格差の大きい都市部に比べ、「全体的に低所得」であるA県では貧困の問題はより見えづらい状況にある。第二に、A県の子どもの貧困率の高さや深刻化の主な要因として、賃金水準の低さやひとり親世帯の割合・増加幅が高いことが挙げられる。その他、子ども数の多さや地方県にしては三世代同居率・持ち家率が低いことなども少なからぬ影響を与えていると考えられる。第三に、母子世帯の親の就業率や正規職員割合は全国に比べて高いため、保護者への就労支援だけでなく賃金水準の改善が喫緊の課題である。第四に、学習支援や子ども食堂などの取り組みが進む一方で、そうした資源の地域的偏りが大きく、公共交通機関が十分に整っていないA県内では居場所へのアクセスも大きく制限されている現状がある。こうしたA県の有する特徴は近隣県と共通するものが多いため、今後はそれらの地域も含めた検討を進めることで課題がより一層明確になる可能性がある。
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