研究課題
平成27年度は、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)の特性を明らかにするため、マウスADSCの効率よい分離・増殖方法の最適化を試みた。皮下脂肪組織を摘出し、コラゲナーゼやトリプシンなどの酵素処理により幹細胞を遊離し、ADSCの分離・培養を行ったが、用いる酵素の活性や反応時間などの条件で、回収率や生存率などが一定しないことが多かったため、ADSCと他細胞種の増殖速度の差を活かした市販の分離キットの利用を検討した。特殊な加工を施した不繊布上に、採取し裁断した脂肪組織塊を乗せて培養し1週間後にトリプシン処理により細胞を剥離し、新鮮な培地で培養する。これにより、マウス由来0.2g程度の脂肪組織から1週間で100万個程度の細胞が容易かつ安定的に回収可能であり、かつ幹細胞マーカーを高発現しており、ADSCの分離・培養が問題なく行われていることが確認できた。さらにADSCを成熟脂肪細胞、骨細胞へ分化誘導を行って細胞分化能を検討したところ、いずれも分化誘導がかかり目的の細胞へ分化したため、得られたADSCは幹細胞であると断定できた。肥満などの代謝異常の成因の一つに生体内での一酸化窒素が関与していることが報告されているので一酸化窒素合成酵素欠損マウスと野生型マウスからADSCを分離し、その機能を解析した。興味深いことに回収できたADSC数は一酸化窒素合成酵素欠損マウスのほうが多く、また、一酸化窒素が脂肪細胞、骨、血管内皮細胞への分化誘導にどのように影響しているかを検討したところ、脂肪細胞への分化亢進、骨細胞・血管内皮細胞の形態異常が観察された。一酸化窒素が幹細胞数の維持・幹細胞マーカー発現と分化、メタボリックシンドロームの病態発現に何らかの影響を及ぼしていることが示唆された。第15回日本再生医療学会総会・学術集会にて本研究成果について発表報告を行った。
2: おおむね順調に進展している
研究に必要な試薬や器具・機材は十分に提供され、研究はおおむね順調に進んでいる。
平成28年度は、脂肪由来幹細胞がどのような善玉液性因子を分泌しているかを中心に明らかにしていく。脂肪由来幹細胞の特性解析が終了すれば、脂肪由来幹細胞が脂肪組織中での慢性的な炎症反応を抑制しているかを動物モデルを用いながら創薬へつなげていく。
平成27年度は、主として予備的な実験を中心に行ったため、研究代表者が所属していた教室が自家繁殖したマウスと研究分担者として研究を分担した研究先で不要となった培養ディッシュやピペットなどの消耗品を活用するとともに、研究分担の過程で得られた研究材料なども本研究に有効活用することができたため、予想以上の支出が抑えることができた。
平成28年度に、研究代表者は新しい研究機関へ異動した。研究の立ち上げ・実験系の構築などのため、細胞培養に必要な培地や血清の購入、液性因子測定のためのキット、実験小動物などの消耗品の購入、研究打ち合わせのための旅費、社会への研究成果の発信などの費用に使用する予定である。
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