研究課題/領域番号 |
15K21253
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
越智 正樹 琉球大学, 観光産業科学部, 教授 (90609801)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 小規模観光実践 / 地域的公共性 / 社会的効果 / 周縁コミュニティ / まち歩き観光 / グリーンツーリズム / 農的自然 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は「観光の社会的効果を明確に理論化し、これを公益・公共性の中に位置づけて説明することで、地域の小規模観光実践が新自由主義的に排除されない理論的テーゼを示す」ことにある。この目的のもとに本年度は次の3つの業績を挙げた。 1つは、まち歩き観光の社会的効果(プロジェクト1)の検証手法構築のために、まち歩き観光の質的特徴を統一的観点から記述的に把捉するための弁別基準を提示して公表した(越智正樹、2016、「まち歩き観光の弁別性と分析基準」『第31回日本観光研究学会全国大会学術論文集』:265-268.)。 2つ目に、公共圏(と親密圏)の変容に関する論考としてかねてより彫啄を重ねていたものを共著書論文として発刊した(越智正樹、2017、「インターネットとまたがる『コミュニティ』─西表島リゾート開発と『ネット原告団』編成を事例に」秋津元輝・渡邊拓也編『せめぎ合う親密と公共─中間圏というアリーナ』京都大学出版会:113-134.)。これは、研究実施計画に示してきた2つの調査プロジェクト(研究の小目的)内のものではなく、研究の大目的に関わる理論構築の一環である。 3つ目に、農的自然の閉鎖性と公開性(プロジェクト2)のうちのアクションリサーチについて、まず沖縄県下のグリーンツーリズム実践団体のネットワーク設立(2017年1月)に実践的に寄与し、その役員として今後もアクションリサーチを継続する術を確立した。加えて、その過程で蓄積したデータ(設立に至る経緯と実践者らの議論)について取りまとめて論考とし公表した(越智正樹、2017、「沖縄県におけるグリーン・ツーリズムの現状と新たなネットワーク形成事業」『西日本社会学会』15:69-74.)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これは申請計画書にも書いた懸念であったが、プロジェクト2(農的自然の閉鎖性と公開性)の主たる対象としていた沖縄県内のオープンファーム構想は進捗を見せていない。代わって農村民泊を中心としたグリーンツーリズムに大きな動きがあり、民泊もまたプロジェクト2のテーマに大きく関わるのでアクションリサーチの対象としている。 しかしこの間、周知のように「民泊」という語を取り巻く情勢が全国的に一変し、現場も行政も大いに混乱し、この情勢への対応体制を整えることがまずもって必要となった。アクションリサーチとして寄与していた私も、まずはその体制づくりに奔走せざるを得なかった。 かくして体制は「沖縄県グリーンツーリズムネットワーク」としてひとまずの確立を見た。むろん、この間の経緯はアクションリサーチの成果として蓄積しているし(「研究業績」の項で記したように既に一部公表済み)、このネットワークは本研究の今後の進捗においても極めて重要な足がかりとなるものである。しかし、この間は実践者らや行政との協働活動に比重を置かざるを得なかったため、本格的な調査はここから始まる段であって「やや遅れている」と自己評価せざるを得ない。 なおプロジェクト1のまち歩き観光については、ツアー内容の弁別的評価基準を提示できたことによって「おおむね順調」と言えるが、観光実践の社会的効果の指標づくりについては未着手である。
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今後の研究の推進方策 |
「進捗状況」の項に書いたように、まずプロジェクト2について本格的な調査に着手する足がかりが確立できた。「民泊」というのはまさに、本研究のテーマである公共性と私性、公開性と閉鎖性が大きく関係する事象であり、その観点からネットワーク参加団体の実践(の質)を評価する研究を展開する。この点において、ネットワーク設立に寄与し役員となったことは極めて有利に働く。 次にプロジェクト1のまち歩き観光については、すでに公表した弁別的評価基準を用いた各ツアー実践の分析が第一に必要であるので、まずはこの分析を進める。同時に社会的効果については、研究協力者をはじめ想定できる何人かの研究者の意見を参考にしつつ、指標項目のリストアップを急ぎたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
「進捗状況」の項にも記したように、研究対象であるグリーンツーリズム実践現場は「民泊」を巡る情勢の急転に巻き込まれ、これへの対応が焦眉の急を要す事態となり、アクションリサーチとして参与している私としても、その対応体制作りより調査を優先するわけにはいかなかった。このため、体制づくりの実践におけるインフォーマルインタビュー調査は行えたものの、質問票調査などは行えなかったため、使用額が低くなった。
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次年度使用額の使用計画 |
体制作り(=調査の基盤づくり)はひとまず終えたため、今後は質問票調査を含めた調査の展開に着手できる。そこにおいて発生する経費(質問票の物品費・その他費、取りまとめに要する人件費など)として、次年度使用額は執行する予定である。一方で、「今後の計画」に書いた内容(特にプロジェクト1)も予定どおり遂行するため、翌年度分として請求した助成金分についても問題なく執行できる予定である。
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