本研究では、運動対象の観察時における周辺視野の両眼立体視の特性を解明する。特に視野の中心と周辺の知覚現象が異なる意義を踏まえ、奥行き運動知覚において、中心視野では低速運動対象への両眼視差の時間変化(DCT) が特化したモデル、周辺視野では高速運動対象への両眼間速度差 (IOVD) が特化したモデルの検証を行う。 まず中心視野にドット特性を変化させた指標を提示し、奥行き知覚を測定した。その結果、ドットの点滅の周波数が高い程、奥に知覚された。またドットの静止領域より点滅領域の方が奥に、さらに運動領域の方が奥に知覚される傾向が見られた。次に周辺視野の偏心度50~70度に視標を提示して応答させた。その結果、視標の検出と形態知覚は高偏心度ほど低下し、歩行時は直立時より低下した。さらに、視線固定条件より、計算を課す認知負荷条件の方が低下した。次に偏心度20度以内の垂直水平傾斜軸上に提示した視標の奥行き知覚を測定し、奥行き知覚量の幾何学的推定値を求めた。その結果、偏心度10度以上で閾値が上昇した。また、物理的な前額面上の刺激が、垂直軸の上視野では手前、下視野では奥、水平軸の左視野では手前、右視野では奥に知覚していた。傾斜軸は偏心度ごとの閾値が垂直水平軸の平均値とも異なった。最後に偏心度20度以内に接近運動を伴うDTCとIOVDと、両眼視差と速度差の特性を持つNormalの視標を提示し、視標の速度要因が奥行き知覚に与える影響について検討した。その結果、中心視野では低速視標をDCTがより感知し、周辺視野では高速視標をIOVDがより感知する仮説は支持されなかった。ただしIOVD とNormalに提示時間の効果が見られた。DTCは両眼視差を、IOVDは速度差の特性を残すが、Normal刺激においては速度差の特徴が表れたといえる。先に述べた周波数を考慮できていない点においては、今後改善すべきである。
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