研究課題/領域番号 |
15K21261
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
小椋 正人 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (10548978)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 活性酸素種 / ミトコンドリア / プロテオーム / アポトーシス / シグナル伝達 / 神経細胞 / 神経変性疾患 / 質量分析 |
研究実績の概要 |
酸化的リン酸化によるエネルギー産生はミトコンドリアの最も重要な機能であるが、同時に、ミトコンドリアはROSの主な発生源である。エネルギー代謝に伴うROS発生については、神経変性疾患をはじめとする種々の加齢性疾患の発症要因の一つと考えられている。ところが、ROS発生から疾患の発症に至るまでの一連の分子メカニズムには、未だ未解明な点が多く残されており、解決すべき基本課題となっている。申請者はこれまでミトコンドリアc-Srcによる呼吸鎖複合体IIのsuccinate dehydrogenase A (SDHA)サブユニットの215番目のチロシンリン酸化がROS産生の抑制に必須の役割を持つことを見出してきた。本研究では、神経細胞群特異的SDHAY215F変異体発現トランスジェニック(Tg)マウスを用いて、ミトコンドリア活性酸素種(ROS)に起因する神経変性モデルを構築し、疾患発症に関与する新規分子の同定および機能解析を行うことを目的とした。本年度は、神経細胞群特異的SDHAY215F変異体発現Tgマウスの作出と病態モデルの構築を行った。Cre/loxPシステムを用いて神経細胞群特異的SDHAY215F発現Tgマウスを作出するために、CAT-SDHAY215F発現Tgマウスとドパミン-beta-水酸化酵素プロモーターを持つCre発現マウスを交配させた。生まれた産仔の遺伝子型を解析したところ、雌においてのみ神経細胞群特異的SDHAY215F発現Tgマウスを得ることが出来た。一方で、雄においては胎生致死に至る可能性が考えられた。また、雌Tgマウス脳におけるSDHAY215F変異体発現をウエスタンブロット法により確認した。さらに、病変部位からサンプルを調製し、LC/MS/MS法により変動するタンパク質を解析し、複数の疾患候補分子を同定することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画に従い、研究目的である神経細胞群特異的SDHAY215F変異体発現Tgマウスの作出と病態モデルの構築を行った。CAT-SDHAY215F発現Tgマウスとドパミン-beta-水酸化酵素プロモーターを持つCre発現マウスを交配させた後、生まれた産仔をSDHAおよびCreに特異的なプライマーを用いたPCR法により遺伝子型を解析した。その結果、雌においてのみ神経細胞群特異的SDHAY215F発現Tgマウスを得ることが出来た。SDHAY215F発現を確認する目的で、脳を摘出し、タンパク質サンプルを調製した後、特異的な抗体を用いたウエスタンブロット解析を行った。神経細胞群特異的SDHAY215F発現Tgマウスのサンプルでは、約70kDaの位置にシグナルが観察された。さらに、発現部位切片を作製した後、TUNEL染色を行ったところ、陽性細胞がコントロール群と比較して、有意に増加していた。さらに、この病変部からタンパク質サンプルを回収し、LC/MS/MS解析を行ったところ、複数の発現変動するタンパク質群を同定することができた。このため、当初の計画通りに研究実施がなされている。一方で、雄において、神経細胞群特異的SDHAY215F発現Tgマウスを得ることができないため別の対策が必要であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
同定された病態発症により変動する新規疾患候補分子群の機能解析を行う予定である。文献やデータベース情報を基に、新規性を有する分子を選別する。さらに、レンチウイルスおよびsiRNAシステムを使って分子機能をin vitro(初代培養神経細胞)およびin vivo(脳内接種)で検証する。また、雄の神経細胞群特異的SDHAY215F発現Tgマウスも疾患発症メカニズムを解明するために必須であるので、ドパミントランスポーター(DAT)のプロモーターを用いたドパミン神経系特異的にCreを発現するマウス(DAT-Cre)との交配を予定している。これらの研究から、ミトコンドリア活性酸素種により開始されるシグナル系の解明を通して、神経細胞死の分子メカニズムの全貌に迫り、神経変性疾患をはじめとする加齢性病態とミトコンドリア活性酸素種との関連性を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の研究費は、当初の計画通りに、細胞培養培地類およびプラスチック器具(主にシャーレ)および動物の購入に使用する。これは、研究計画において神経細胞および遺伝子改変マウスを対象に実験を行っていくためである。特にレンチウイルスの作製に関して高力価で純度の高いものを得るには、多大な細胞数から精製していく必要がある。さらに、遺伝子導入試薬の使用量も通常の実験よりも増加するため購入額が高めになる。
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次年度使用額の使用計画 |
疾患候補分子の抗体、シグナル伝達に関わる市販抗体および免疫沈降用ビーズ、siRNA作製の費用に、相当額の消耗品費を充当する。また、本研究課題において得られた知見の迅速な公表を目的に、国内学会にて2回、および国際学会にて1回発表する予定である。そのため、研究費を国内および外国旅費に使用する。
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