研究課題/領域番号 |
15K21263
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
谷田部 緑 東京女子医科大学, 医学部, 准講師 (30510325)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アミノ酸 / 血圧 / リジン / 食塩 / ラット / 種差 / 腸内細菌 |
研究実績の概要 |
本研究は、食塩摂取に対するリジン代謝の変化にラットとヒトの間で明らかな違いがあることから、リジン代謝の相違を検討することでげっ歯類よりも食塩感受性の高いヒトの血圧上昇メカニズムを解明しようとするものである。現在まで我々は、高血圧自然発症ラット(SHR)では対照ラット(WKY)に比べて血漿リジン濃度が有意に低いことを見出した。また、過剰な食塩を摂取するとヒトでは尿中リジン排泄の増加に伴い血漿リジン濃度が低下するが、ラットでは逆に血漿リジン濃度が増加することを明らかにした。ヒトの健診のデータでは、単相関で血圧と血漿リジン濃度に負の相関がみられた。種差や食塩負荷でのリジン動態の差異については、腸管での吸収や腸管内でのリジン産生に差異がある可能性が考えられる。リジンは必須アミノ酸でヒト体内での産生はされないが、腸内細菌の中には、リジンを産生するものがあり、ヒトおよびラットもしくはWKYとSHRの腸内細菌の差異や食塩負荷による腸内細菌叢の変化が血圧変化や食塩感受性に関与する可能性があると考えている。実際、糞便中のアミノ酸濃度測定により、通常食下のWKYとSHRを比較した際に、SHRの糞便中リジン濃度がWKYの約2/3と低いことを見出した。実際に腸内細菌の関与かを調べるため、抗菌薬投与ラットや無菌ラットでの実験を予定している。また、今後、リジン補充による血圧低下作用または食塩抵抗性増強作用やラットへの食塩負荷時の血漿リジン増加の機序等を明らかにすることで、新規治療法の確立に貢献できると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者が平成28年4月に所属大学を異動したことから、新しい研究場所での実験の立ち上げにやや時間を要した。しかし、実験動物使用に関する手続きなど必要な準備は終了して現在は研究を再開できており、今後の進捗には特に問題がないと考える。現在は、主に食塩負荷時のラットにおける血漿リジン濃度上昇について、その機序を継続して検討している。食塩負荷時の血漿リジン上昇が筋肉など体内のアミノ酸プールなどからの動員だとすると、血漿中バリン・ロイシン・イソロイシンの濃度がともに上昇すると考えられるが、それが見られないことから、腸管内でのリジン産生やリジン吸収に差異がある可能性がある。特に、腸内細菌にはリジンを産生するものがあるため、糞便中のアミノ酸濃度を測定し、食塩摂取によるリジン産生増加の有無を検討している。糞便中のアミノ酸濃度測定については既報が少ないが、我々は異なる方法を検証し、一定の結果を得られる状態に至った。また、通常食下のWKYとSHRを比較した際に、SHRの糞便中リジン濃度がWKYの約2/3と低いことを見出した。ヒトの血漿リジン濃度と血圧の解析では、初期の単回帰分析に追加して各種血圧関連因子を調整した状態でも関連があるかを確認中である。
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今後の研究の推進方策 |
リジンの代謝・動態に加え、リジンの作用についてもラットを用いた検討を行っているが、さらに例数の追加が必要である。今後とも、リジンを負荷した際の血圧変化について、例数を増やして評価する予定である。また、食塩負荷でのWKYおよびSHRの糞便中リジンのデータを現在解析中であるが、食塩により腸管でのリジン産生が亢進する場合には、塩酸バンコマイシンの投与でその変化が消失するかどうかを検証する。もし、塩酸バンコマイシンの投与により糞中リジン濃度が大幅に減少する場合、ヒト腸管におけるリジンの存在には腸内細菌叢が大きく関わっていることが示唆される。アイソレータ内で無菌飼育した場合の血圧、アミノ酸代謝も確認する。その他、腸管でのリジン吸収に差異がある可能性については、トランスポーターの解析を考えているが、糞便中リジンのデータ解析の結果により優先順位を決定する。また、リジンが抗高血圧作用を持つことを明らかにした上で、リジンの5-HT4受容体拮抗作用による降圧の可能性等を培養細胞も用いて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始時に異動があったため、初年度は進捗が計画よりやや遅れたことは確かであり、それに伴って研究費の使用額も予定より少なくなった。現在、研究環境は整ってきており、平成29年度には研究を迅速にすすめる予定のため、次年度使用額の研究費が必要となる見込みである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度には、in vivo およびin vitroの実験を並行して進める。動物や実験器具、細胞培養用品の購入や、検査料、学会発表の旅費に経費を用いる予定である。
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