アミノ酸代謝の個人差や腸内細菌の関与と生活習慣病の発症・維持機構との関連が注目されている。われわれは、食塩摂取に対するリジン代謝の変化には、ラットとヒトとの間で明らかな違いがあり、食塩摂取によりヒトでは血漿リジン濃度が低下するが、コントロールラット(WKY)では逆にリジン濃度が増加することを明らかにした。高血圧自然発症ラット(SHR)ではWKYに比べて血漿リジン濃度が有意に低く、低血漿リジン濃度がヒトやラットの食塩感受性と関連する可能性が示唆された。リジンの作用を検討するため経口リジン負荷を行ったところ、SHRとWKYの両者で有意な血中リジン濃度の上昇がみられた。リジン負荷で有意な血圧の変化はなかったものの、1日尿量はリジン負荷したSHRで有意に上昇しており、一定条件下ではリジン負荷が利尿作用をもたらす可能性が示唆された。次に、食塩負荷時のリジン動態について検討した。食塩負荷時にリジンの尿中排泄はヒトでもラットでも増加することより、主な違いは腸管でのリジン産生である可能性を考え、糞便中のリジン濃度を測定した。通常食下において、SHRの糞便中リジン濃度はWKYの糞便中リジン濃度の58%と有意に低かった。食塩負荷では、WKYでもSHRでも糞中リジン濃度は低下する傾向を認めた。即ち、ラットにおける食塩負荷での血漿リジン濃度の増加には、腸管内のリジン産生増加よりリジン吸収の差異が影響し、WKYとSHR間の血漿リジン濃度の差異には腸内細菌による腸管内のリジン濃度の差異が影響することが示唆された。腸内細菌のリジン産生または腸管のリジン吸収の差異が高血圧や食塩感受性の成因に関与する可能性がある。
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