本研究は,わが国の全自殺死亡に占める割合が最も高い中高年男性に対する効果的な自殺予防対策を検討するため,中高年男性の援助要請(help-seeking)の特徴を多角的に把握し,中高年男性と周囲の援助資源とを適切につなげるための方法論について考察を行うことを目的として実施した。 平成27年度研究では,40-59歳の一般成人男性1800名を対象とした大規模なWeb調査を実施し,基礎的なデータを収集した。平成28年度研究以降はこのデータを活用して,中高年男性の自殺関連行動や援助要請と関連する要因について様々な解析を行ってきたが,平成30年度研究では,自殺リスクが最も高い集団の一つとされている「離別を経験した中高年男性」に焦点を絞って,その自殺念慮と援助要請の関連性についてサブ解析を行った。その結果,過去1年以内に自殺念慮を経験している離別経験者は他者に助けを求めることでその他者との関係性が変化することを危惧する傾向があること,職場に自分の味方になってくれる人がいると回答した者は他者への援助要請に抵抗感を示す傾向があること,職場以外の関係性の中で味方になってくれる人がいると回答した者は他者への援助要請をポジティブにとらえる傾向があることなどが示唆された。 また,平成30年度研究では,負債や就労問題といった社会経済的要因を抱えた中高年男性のうち,すでに何らかの専門的援助につながっている者がいかにしてその援助を受けるに至ったのかを定性的に分析することを目的に,社会経済的要因を抱えた中高年男性への支援を経験したことのある対人援助者15名に対してインタビュー調査を実施し,分析のためのデータを収集することができた。
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