研究課題
鉄や亜鉛栄養価が高いコシヒカリを作出し、日本人が日々摂取する米から鉄や亜鉛をより多く摂取できれば、日本人の鉄欠乏性貧血症や亜鉛欠乏症の改善に貢献できる。また、これによりコメの商品価値を高めれば、農家にとっても利益となる。そこで、重イオンビームにより変異を導入したコシヒカリの変異株系統に対し、種子中の鉄・亜鉛含有量と収量、表現型を元に選抜し、鉄や亜鉛含有量が高く、他の形質が通常のコシヒカリと同等の新しいイネ品種を作出することを目的としている。鉄や亜鉛含有量が高い63系統を選抜し、M3世代の植物体を2014年度に石川県立大学の圃場水田で栽培を行った。また、収穫したM4世代の種子の白米と玄米の鉄・亜鉛含有量をICPS発光分析装置により測定し、鉄・亜鉛含有量の高い24 系統を選抜した。これらのM4世代のイネと野生型のイネを、各系統につき40個体ずつ、2015年 6月2日より、再び石川県立大学の圃場水田で栽培した。定期的に写真撮影を行い、各系統の表現系を観察した。また、出穂日、草丈などの表現型を調査した。9月28日にイネを収穫し、収量と捻率を記録した。ICPS発光分析装置により、M5種子の玄米と白米中の鉄・亜鉛やその他の微量元素の含有量を測定した。それにより、収量、念率や表現型が既存のコシヒカリと同等で、種子中の鉄・亜鉛含有量が高く、カドミウムやヒ素などの他の有害な重金属が増加していない有望な系統を9 系統 (サブラインを考慮した場合は15系統) 選抜した。
2: おおむね順調に進展している
昨年にM4世代のコシヒカリ変異株を栽培し、サブラインも含め、480 個体の玄米の金属含有量を測定し、特に高いものについては白米の金属含有量も測定した。その結果、予定通り次世代からも鉄・亜鉛栄養価の高い有望な系統を得られ、9 系統まで絞りこんだ。
選抜した9 系統 (サブラインも考慮して15系統) に対して、40 株ずつ栽培して、昨年と同様に表現系を観察し、表現系と収量が既存のコシヒカリと同等であることを再確認する。20 株程度について玄米と白米の金属含有量測定を行う。さらにM6世代の種子中の鉄・亜鉛含有量の増加を再確認する。特に有望な2 系統については、選抜試験区とは別に200 個体ずつ栽培する。そこから3 kg程度の白米を得て、食味を調べる。M6世代の種子中の鉄含有量の増加が顕著である場合は、石川県立大学、食品化学科の榎本俊樹教授の研究協力を受け、鉄欠乏症のマウスにこの種子を給餌し、血中ヘモグロビン値を測定することで、鉄欠乏性貧血症からの回復を調べる。また、M6世代の種子中の鉄または亜鉛含有量が、サブライン間で安定して増加しており、目的遺伝子に対するホモラインが得られれば、種子中の鉄・亜鉛含有量が高い選抜系統の原因遺伝子特定のための遺伝子解析試験を行う。そのためには、マイクロアレイ解析により変異イネの遺伝子の発現変化を網羅的に調べ、変異遺伝子を予測し、シーケンシングにより変異を確定する。もしくは、次世代シーケンサーを用いてゲノム配列を読み取り、変異箇所を同定する。推定された変異遺伝子の機能が未知である場合には、以下の方法でその新規遺伝子の機能を推定する。1.データベース上から、シロイヌナズナ等、他の植物において相同遺伝子の機能についての報告がなされているかどうかを調べる。2.農業生物資源研究所が公開しているイネの遺伝子発現データベース(Rice X Pro) を利用して、変異遺伝子の発現部位と発現時期を調べる。 3.コシヒカリの変異株を鉄・亜鉛濃度を変えた水耕液で栽培し、生育の変化と、葉や根など植物体の各部位における鉄・亜鉛含有量を調べる。
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Myanmar Agricultural Research Journal
巻: 4 ページ: in press ページは未定