研究課題/領域番号 |
15K21278
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
栗田 尚佳 岐阜薬科大学, 薬学部, 助教 (00746315)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / エピジェネティクス / メタロチオネイン |
研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は、原因不明の神経変性疾患であり進行は早く、発症から3~5年の内に呼吸麻痺等で死亡する。これまでに、ALS患者の脳脊髄液中の亜鉛濃度の上昇、ならびに金属代謝関連タンパクであるメタロチオネイン(MT)-3や、亜鉛輸送体であるZnT3の脊髄中の発現量の減少を確認している。これらの発現量の低下に、遺伝子プロモーター領域におけるエピジェネティクス変化が関与していると考え、ヒト神経芽細胞株(SH-SY5Y細胞)やヒト胎児腎細胞(HEK293細胞)を用いて、解析を行った。まずは、MT3やZnT3の遺伝子誘導機構は全く解明されていないのと、ALS発症に小胞体ストレスが関与している可能性があることから、小胞体ストレス誘導剤に対する反応性を検討した。小胞体ストレス誘導剤であるツニカマイシン曝露により、ZnT3の遺伝子発現量の上昇が認められた。また一方、ツニカマイシン曝露による、MT3遺伝子発現量の減少傾向が認められた。よって、これらの遺伝子が小胞体ストレスによって、反応する可能性があることが示された。また、MT3を過剰発現させたHEK293細胞において、ツニカマイシン曝露による細胞死が抑制されたこと、またZnT3のノックダウン細胞において、ツニカマイシン曝露による細胞死が促進されたことからも、MT3とZnT3は小胞体ストレスに対しての防御効果を有する可能性が示唆された。従って、この2つの分子は、細胞内ストレスから起因する孤発性ALSの治療標的としての可能性が示唆された。MT3とZnT3の遺伝子プロモーター解析を行うために、レポータージーンアッセイ用のベクターの構築し、その検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヒトの検体についての、倫理審査に遅れが生じALS臨床検体における解析を予定通り進めることができなかった。エピジェネティクス解析における標的になる、遺伝子プロモーターについての解析を行う前に、これまでにヒトALS検体において変動が認められたMT3とZnT3に関して、ヒト培養細胞を用いて、小胞体ストレス曝露による遺伝子発現量の変動を確認することができた。MT3とZnT3遺伝子プロモーターを組み込んだレポータージーンベクターは構築することができたが、詳細な遺伝子プロモーターの機能的解析までは至っていない。しかしながら、MT3とZnT3に関する小胞体ストレスの保護効果を確認することができ、この2つの分子は、細胞内ストレスから起因する孤発性ALSの治療標的としての可能性が示唆された。また、ALS原因遺伝子の1つであるTDP43の変異体を導入したHEK細胞で、ツニカマイシンによる細胞死および細胞内凝集体の増加が認められた。従って、TDP43変異体導入細胞は小胞体ストレスに対して脆弱であることが示唆された。さらに、TDP43変異体導入細胞におけるZnT3遺伝子発現量は、小胞体ストレス曝露により有意に減少した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ヒトに関する倫理審査が承認され次第、ヒトALS検体の解析を中心にMT3およびZnT3プロモーター領域におけるエピゲノム解析を早急に行う予定である。そして、ヒト培養細胞やALSモデル細胞を用いてレポータージーンアッセイによる遺伝子プロモーター解析を行う。これらの結果を総合的に組み合わせることで、ヒトALSにおけるエピゲノムメカニズムを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費において、必要な試薬の価格の関係上、次年度使用額として生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額が比較的少額であり、本来の使用計画にはほぼ影響は与えないので、当初の計画通りに使用する。
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