研究課題/領域番号 |
15K21280
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研究機関 | 愛知県立芸術大学 |
研究代表者 |
阪野 智啓 愛知県立芸術大学, 美術学部, 講師 (00713679)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 室町時代やまと絵屏風 / 金磨きつけ / 雲母地 |
研究実績の概要 |
本研究は、室町時代のやまと絵屏風で限定的に用いられた金・銀・雲母による加飾表現の中で、特に現代ではその用法がつまびらかでない「金磨きつけ」と「雲母地」技法の解明を目的とする。 平成27年度は、自身の先行研究で行っていた、西洋テンペラ画の金を磨く技法である「黄金背景」の検証を再度行い、金箔を磨く効果について日本絵画との共通性について探った。その結果、単純に磨いて金箔の光沢感を出すような効果を求めるには、日本絵画の下地層構造ではあまり効果はないと判断している。また、古来より猪牙で磨くことも伝わっており、その可能性として裂箔の使用や、厚い金箔の使用も視野に入れて28年度以降の研究で実技検証を重ねる予定である。さらに下地層に雲母地を引いて、切箔の撒きつぶしも行い磨いているが、芳しい効果は得られていない。一方で雲母引き技法については、フノリ膠を適切に用いることによって堅牢な下地層を作ることに成功した。 また当該年度には、室町屏風の中でもサントリー美術館の「四季花鳥図屏風」と、東京国立博物館の重要文化財「浜松図屏風」の熟覧調査が実施できた。「四季花鳥図屏風」の紙地に雲母地は確認されず、金地も従来指摘されるように金泥引きによるもので、その金泥引きを磨いている可能性について注意して観察したものの、決定的な要素は発見できなかった。一方「浜松図屏風」は、部分的に粒子感を見いだせるほどの雲母地に、2ミリ以下の切り箔を「撒きつぶし」ていることが判った。撒いた切り箔には微妙な大きさの違いがあり、雲形に用いる箔の方が若干大きい。使用された金箔は、四号箔の合金率が最も近い色に見えたが、それよりさらに銀の含有量が多い可能性がある。銀箔を用いた形跡はなく、雲形の括りには藍や臙脂のような染料系の絵具で青・赤でぼかされており、特異性を感じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
27年度に予定していた自身の先行研究の再検証や、金箔工房(中村製箔所)への金箔制作打診、室町屏風熟覧、検証予定の実技をおおよそ実施することができた。実技検証では、「磨く」効果について芳しい結果が得られなかったが、想定した実技検証を行うことによって、なぜ効果がないか理由が明らかになってきたことが、大きな研究成果であると考える。また室町屏風2件の調査が実現し、そのうち1件は時代を代表する「浜松図屏風」の熟覧であったことから、本調査は今後研究を推進する上で貴重な機会となった。また熟覧ではなかったが、金剛寺「日月山水図屏風」、サントリー美術館「日吉山王・祇園祭礼図屏風」を閲覧することができ、金箔、特に裂箔の用い方にヒントを得ており、次年度にはさらに検証を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
28年度は、これまでの研究で実技的な課題となっている「磨く」効果についての検証をより進めていく。具体的には、箔足のない室町時代の「金扇」に着目している。これは金剛寺「日月山水図屏風」やサントリー美術館「日吉山王・祇園祭礼図屏風」などでみられる裂箔の使用例の一種ではないかと推察する。実際に裂箔を撒きつぶし、その効果について検証する予定であり、より復元性を高めるために、中村製箔所に室町時代の実情に近い箔(4号合金率、縁付け、打ち放し)の作成を依頼している。また裂箔には、唐紙技法とのかかわりが想定されていて、滋賀県の唐紙工房に取材の予定である。雲母地についても唐紙技法との共通性がないか検証を進める。 また室町屏風の調査については、出光美術館で「四季花木図屏風」「日月四季花鳥図」が出品されるのでその閲覧と、東京国立博物館の「日月山水図屏風」、サントリー美術館の「日吉山王・祇園祭礼図」などの熟覧調査を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定通り執行した結果、端数が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度は特注金箔の制作依頼を予定しており、そちらの経費の充足分としたい。
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