材料の検討として、室町時代の金箔がどのようなものだったのか検討を試みた。戦国時代以降には、金碧障壁画でよく見られる「継ぎ重ね」のある箔が主流となるが、この製法を再検証することで、それ以前の金箔がどのようなものであったか伺える可能性がある。野口康氏の先行研究で継ぎ重ねる金箔の提唱がなされたが、その意見に賛同しつつ、およそ10㎝四方の四角形を形成するために「継ぎ重ねる必然性」があったと推察し、打ち延ばされた金箔の厚みも10㎝四方にとどかないくらいのものであるとの検討に至った。29年12月に別の調査でミャンマーに派遣された際に当地の金箔製法を閲覧できたが、やはり継ぎ重ねた箔を用いていたため、その手法が確認できた点で成果があった。 上記を踏まえ、協力業者に現代金箔の完全に仕上げとなる前段階のやや厚めな金箔と、文献から中世は現代の5~10倍厚い可能性も示唆されているため、その厚みに相当しそうな「澄」と呼ばれる状態の金箔も入手して、磨き付け技法の試作を行った。これまでの検討から、細かく切った切箔を撒き潰す「磨き付け」と、素地かあるいは分厚い胡粉下地に適度な大きさの金箔を敷き詰めて磨く「磨き付け」の双方のやり方があると結論付け、主に後者の手法を実証した。結果的には、澄ほどに厚みがあるとうまく磨き付けの効果が発揮できないが、やや厚みのある金箔では、参考にした「日吉山王・祇園祭礼図屏風」のような光沢感が再現できた。 その他、中世後期から近世にかけて作例が確認できる「刷り箔」技法も検証して、使用される正麩糊の効果や雲母刷りの再現をした。 また「浜松図屏風」(東博)の括りのある金雲表現に着目し、磨き付けによる金銀雲と、赤・青・白の三色が確認できる括り雲を再現した。さらに依頼のあったワークショップで雲母地と金銀箔を用いた室町時代のやまと絵屏風の表現技法を主題とし、「浜松図屏風」を部分再現を試みた。
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