生殖機能の制御因子としてキスペプチン神経が注目されている。生殖機能は授乳による吸乳刺激、低栄養、ストレス等の様々な因子に制御されることから、キスペプチン神経に対する入力の解明は生殖制御メカニズムの理解を深めるために重要である。キスペプチン神経に入力する神経の探索のため、偽型狂犬病ウイルス (pRABV) を用いた「起始細胞特異的逆行性トレーシング」を計画し、昨年度までにpRABVを作製するためのプラスミドとCre発現細胞を修飾するためのアデノ随伴ウイルス (AAV) を準備した。 本年度は、pRABVのプラスミドを用いて、EnvA-HEPΔG-GFP (HEP株狂犬病ウイルスを構成するGタンパクがGFPに置換されEnvAでコーティングされてTVA受容体を含む細胞にしか感染しないpRABV)を作製した。次に、neuropeptideY (NPY) 神経にCre recombinase (Cre) を発現するマウスの弓状核にAAV-FLEX-TVA-mCherry (Cre依存性にTVA受容体を発現させるAAV) を投与し、その後作製したEnvA-HEPΔG-GFPを投与することで、作製したAAVやpRABVの機能をin vivoで評価した。 Creを発現していないマウスへの両ウイルス投与ではGFPシグナルが見られなかった。一方、NPY-Cre miceへの投与では投与部位近傍にのみTVA受容体発現が見られた。さらに投与部位から離れた視索前野や室傍核ならびに扁桃体にGFP陽性細胞が見られた。これらのことから作製したウイルスがCreもしくはTVA依存性に機能する事、ならびに弓状核近傍のNPY神経には視索前野や室傍核ならびに扁桃体から入力することが明らかとなった。 今後、キスペプチン神経にCreを発現するマウスで同様の実験を行いその投射神経を明らかにする予定である。
|