研究課題/領域番号 |
15K21292
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
仲村 英也 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00584426)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / 細胞膜 / 膜透過 / ナノ粒子と細胞の相互作用 |
研究実績の概要 |
現在、ナノ粒子を利用した治療技術の開発が行われているが、その実現にはナノ粒子が細胞膜を透過する現象を精密に制御する技術の開発が必要である。本研究では、外部電場を印可してナノ粒子を細胞内に送達する手法に着目した。特に、人為的に操作可能な因子である「ナノ粒子の物性」と「電場の印加条件」の影響を解析し、ナノ粒子の物性に応じた最適な電場印加条件を決定することを研究目的としている。平成28年度の研究実績は以下の通りである。
1. 前年度までに、我々は分子動力学解析によって膜破壊電位(膜穿孔が生じる臨界膜電位)以下の適度な強度の外部電場を印加することで、細胞膜を傷つけずにナノ粒子の細胞膜直接透過が可能であることを見出したが、この直接透過に及ぼすナノ粒子物性の作用機構は不明であった。そこで本年度は、ナノ粒子の「親水-疎水性」、「粒子径」、「修飾分子のアルキル鎖長」がナノ粒子の細胞膜透過メカニズムに及ぼす影響について解析した。親水‐疎水性が異なるナノ粒子の透過頻度を分子動力学シミュレーションで解析したところ、両親媒性のナノ粒子が最も透過しやすいことが分かった。粒子径の影響について同様に解析したところ、粒子径が大きな帯電粒子は外部電場から最も大きいクーロン力を受けるが細胞膜を透過しにくく、粒子径が小さいほど膜透過性が高いことが分かった。さらに、修飾分子鎖長の影響についても解析したところ、修飾分子鎖がリン脂質疎水鎖より短い場合は細胞膜を直接透過するが、これが長くなると疎水部から脱離しにくくなり、膜を透過できないことが明らかとなった。
2. 平面脂質膜法を用いて電場印加環境におけるナノ粒子-脂質膜間相互作用を実験的に解析した。その結果、ナノ粒子の濃度増加に伴い脂質膜に生じる欠損を、脂質膜を介して電荷をもった物質が移動する際に流れる微少リーク電流の形で検出することができる実験系を構築することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ナノ粒子の物性が細胞膜透過に及ぼす影響について、当初の計画よりも前倒しで解析を進めることができた。また、平面脂質膜を用いた実験についても、年度内にモデルナノ粒子の選定や、これを用いた実験系の構築を年度内に完了することができており、当初のスケジュールよりも早く進展した。
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今後の研究の推進方策 |
分子動力学シミュレーションによる解析では、現状の現象論的な解析から、透過現象の本質的メカニズムを明らかにすることに取り組む。具体的には、ナノ粒子近傍に発生していると考えられる局所的な膜電位増加を分子動力シミュレーション結果から定量化し、直接透過が引き起こされる普遍的なメカニズムを明らかとする。並行して、平面脂質膜法による実験では、ナノ粒子の脂質膜透過を評価できる実験系を構築し、シミュレーション解析から得られたナノ粒子が細胞膜を直接透過する条件が、実際の実験系においても適用可能であるかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に用いるナノ粒子試薬を、前年度までに購入していた消耗品で賄うことができたため、実験消耗品を当初予定していた金額より大幅に抑えることができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費は、シミュレーションデータ保存用大容量記録媒体の購入および実験で使用する各種市販品ナノ粒子の購入に充てる。旅費は国際会議参加費に充てる。
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備考 |
Nanoparticle can directly permeate across cell membrane without membrane disruption
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