研究課題/領域番号 |
15K21295
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
柳澤 幸子 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 助教 (60557982)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 呼吸鎖超複合体 / ミトコンドリア / 呼吸鎖電子伝達系 / チトクロム酸化酵素 / 振動分光法 |
研究実績の概要 |
ミトコンドリア呼吸鎖電子伝達系末端にあるチトクロム酸化酵素(CcO)は、膜への再構成や膜電位の存在、溶液のpH等蛋白質を取り巻く環境の変化が蛋白質内部にある活性中心の電子状態に影響する事がこれまでの筆者の研究から明らかになっていた。一方、呼吸鎖複合体が一定比率で集合した「超複合体」の電子顕微鏡構造解析像は、超複合体中CcOの構造が単離精製した結晶中とは異なる事を他者のこれまでの研究により報告されている。本研究では呼吸鎖超複合体形成がCcOの活性中心の電子状態にどのような影響を与えるのか、振動分光法により調べ、呼吸鎖超複合体形成の意義を化学反応性の観点から明らかにしたい。具体的には、CcOについて、単独で存在する場合と超複合体形成時で共鳴ラマンスペクトルを比較し、活性中心であるヘムの電子状態に違いがあるか調べる。これまでに超複合体 のラマンスペクトルの報告は無いので測定条件の検討からはじめる。ここで言う測定条件と は、ラマンスペクトルが測れる波長や溶液の条件で、なおかつ、測定を通して超複合体が形成されたままであり、各複合体が活性を維持した状態を言う。決定した条件で測定したラマンスペクトルは、超複合体を形成する各複合体の混合液のスペクトルや、CcOのみのスペクトルを参照として測定し比較・検討する。違いが検出されれば、それぞれがどのような電子状態を反映しているのか帰属すると言うものである。本年度、巨大な膜蛋白質複合体である呼吸鎖超複合体について、還元剤存在下で可視共鳴ラマンスペクトルを測定する事を可能にした。また、成果として学術雑誌にて報告をした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成27年度において、超複合体共鳴ラマンスペクトル測定条件の検討、ラマンスペクトル測定が試料に与える影響の評価方法の検討および種々の溶液条件における可溶化CcOの共鳴ラマンスペクトルの測定を行う事としていた。ブルーネイティブページ、活性測定及び吸収スペクトル測定を、共鳴ラマンスペクトル測定前後で行い、評価したところ、決定したラマンスペクトル測定条件は超複合体の構造維持に大きく影響しない事が分かった。また、共鳴ラマンスペクトル測定条件については、還元型試料の測定条件を決定し綺麗なスペクトルを得る事に成功した。すなわち、励起波長を442ナノメートルとし、2から3マイクロモーラー程度の低濃度の超複合体溶液の可視共鳴ラマンスペクトルを得た。また、比較対象であるCcOモノマーの調製方法を確立し、CcOモノマーと超複合体構成要素の混合液についても超複合体と同条件で可視共鳴ラマンスペクトルを測定する事ができた。超複合体の分子量は1.7メガダルトンと非常に大きいことから、レイリー光がとても強いことが予想された。また、単離精製した各複合体を混合することによって超複合体が形成されるのではなく、ミトコンドリアにおいて超複合体を形成しているものを取り出してくることから、分光学的に高純度な試料、すなわちラマン測定の妨げとなる蛍光を発する分子を十分に取り除くのは困難であると懸念していた。当初の予想ではこれらの問題をクリアするのに相当の時間を要すると考えていたが、本測定条件においてはそれらが大きな問題になることなく測定できた。さらには得られたスペクトルを超複合体調製方法とともに学術雑誌に論文として報告した。以上のことから、当初の計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
還元型試料について、可視共鳴ラマンスペクトルの測定条件及び、参照試料であるCcOモノマーと超複合体構成成分混合液の調製法を確立したので、今後はラマンスペクトルの分解能を高くし、超複合体、構成成分混合液、およびCcOモノマーの三つの異なる条件中のCcOの共鳴ラマンスペクトルに差異があるのかどうかを明らかにする。特に酸素が結合する鉄イオンと直接結合しているヒスチジン残基と鉄イオンとの結合強度に違いがあるのか、また、ヘム側鎖の構造に違いがあるのか、それらのラマンバンドを比較して検討する。さらには、ポルフィリンそのものの振動モードにも注目し、超複合体形成がCcOに与える影響について調べる。また、基質である酸素分子の代替物として一酸化炭素を結合させた場合のラマンスペクトルの測定条件を検討し、条件が見つかればラマンスペクトルを測定しCOに関与するラマンバンドの比較を基に超複合体形成がCcOに与える影響を調べる。COは光によってヘム鉄から乖離する性質があるため、レーザーパワーを強くするとCO結合型のスペクトルが測定できない。よってレーザーパワーは弱くして測定する必要があり、綺麗なスペクトルを得るためには長時間の測定が必要になる。長時間のラマンスペクトル測定においても超複合体が安定に存在しているようにするか、または大量に試料を調製して短時間の測定をフレッシュな試料で繰り返し行って足し合わせる等の工夫が必要と予想される。CcOモノマー、超複合体、超複合体構成要素の混合液の三状態中のCcOへのCOの結合様式を比較するためにはCO伸縮振動及びFe-CO伸縮振動の検出が必須であるが、超複合体中の他のヘム由来のバンド強度に比べ、検出可能な十分な強度のラマンバンドが得られるように適当な励起光の選択等、条件の検討が重要な鍵となる。
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