研究課題
ミトコンドリア呼吸鎖電子伝達系末端にあるチトクロム酸化酵素(CcO)は、蛋白質を取り巻く環境の変化が蛋白質内部にある活性中心の電子状態に影響する事をこれまでに明らかにしてきた。本研究では呼吸鎖複合体が一定比率で集合した「超複合体」の形成がCcOの活性中心の電子状態に影響を与えるのか、振動分光法により調べ、呼吸鎖超複合体形成の意義を化学反応性の観点から明らかにする事を目的とした。具体的には、CcOが単独で存在する場合と超複合体形成時のそれぞれで共鳴ラマンスペクトルを比較し、活性中心であるヘムの電子状態に違いがあるか調べた。H27年度は還元型試料のラマンスペクトル測定条件検討を、H28年度においては、高分解能測定を行ない、1.7 MDa相当という非常に大きな超複合体の中のたった一つのヘム鉄-His結合を検出する事に成功した。このラマンバンドの振動数は測定した分解能では誤差範囲内で違いはなく、すなわち超複合体形成は完全還元型における酸素親和性に影響しないことが示唆された。H29年度においては、酸素還元中心に酸素の代わりにCOが結合した超複合体のラマンスペクトルを測定した。ヘムに結合したCOは光によって乖離する性質があり、COが光乖離しない十分弱いレーザーパワーで、S/Nがよく、さらに超複合体が壊れていない測定条件を検討した上でスペクトルを得た。同位体COを用いた差スペクトルにおいて、鉄に結合したCOに由来するラマンバンドのうちFe-CO伸縮振動とFe-C-O変角振動の二種類の検出に成功した。その振動数は誤差の範囲で一致していたが、同位体シフト幅、及びヘム側鎖に由来するラマンバンドの領域にわずかながら差が見られた。超複合体形成はわずかながらヘム鉄及び側鎖の電子状態に影響を与えることが示唆された。これは、CcOの調節因子結合時に起こる、活性に影響を与える構造変化とは異なっていた。
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