研究実績の概要 |
本研究は、(A)海を持つ惑星の探査法開発、(B)大気の光学的厚みの調査法開発、(C)「大気透過光の偏光」を利用した惑星特徴づけ手法の開発で構成される。平成29年度は、前年度に引き続き(C)に注力して研究を行った。また、(A)、(B) についても並行して研究を進めた。 (C)について、平成27年4月4日にすばる望遠鏡を用いて行った皆既月食の偏光分光観測についての論文を、前年度にアメリカ天文学会に投稿していた。本年度、査読者からのコメントを受けて、追加のデータ解析と議論を行い再投稿したところ、The Astronomical Journal (154:213, 2017) に論文が掲載された。本論文では、月食中の月が波長500-600nmおよび酸素分子吸収波長760nmで、最大2-3%程度偏光していたという観測結果を報告した。月食の偏光は、約50年前に簡単な観測報告がされて以来、原因が不明なまま放置されていた問題である。今回はじめて偏光度スペクトル(偏光度の波長依存性)を取得できたことにより、偏光の原因を制限することができた。本論文では、観測された偏光は「地球大気透過中の非等方的な2回散乱」と「緯度方向の大気非一様性」が組み合わさって生じた可能性が高いと結論づけた。光が惑星大気を透過する際に偏光が生じることがあることはほとんど知られておらず、この現象を応用することで新しい惑星大気研究手法が開拓できる可能性があると考えている。 (A), (B)については、月面地球照を近赤外波長で偏光観測することを計画している。この観測を実現するために、兵庫県立大学西はりま天文台2mなゆた望遠鏡に搭載されている3波長同時近赤外観測装置NICに偏光観測モードを導入した。偏光素子挿入機構の設計・取り付けを行い、実際の天体観測により偏光モードでの観測が可能であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(A), (B), (C) 共通項目として実施する予定であった「30m級望遠鏡での応用可能性の検討」は、予定を早めて前年度までに検討手法を確立した (Takahashi, et al., 2017, A&A)。また、研究項目(C)については平成27年4月4日に行った月食観測のデータ解析を完了した (Takahashi et al., 2017, AJ)。月食の偏光に関する議論の中で、偏光の一因である「緯度方向の大気非一様性」とは具体的には何か?という新しい謎が生じた。これを解決するためには、月食の偏光観測を継続する必要がある。そこで、平成30年1月31日にも月食の偏光観測を行った。さらに、平成30年7月28日にも観測を行うことにした。このように(C)の研究量が予定より増加したため、結果として、(A), (B) についてはデータ取得・解析がやや遅れてしまっている。
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