研究課題/領域番号 |
15K21299
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
堀井 謹子 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (80433332)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 視床下部 / エンケファリン / ウロコルチン / 薬理遺伝学 / 光遺伝学 / 神経回路 / 情動 / 穴掘り |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、申請者らがマウス視床下部に発見した新規領域デルアエリアの機能について、情動と行動制御の観点から解明することである。課題申請時は、当該新規領域を「デルタエリア」と称していたが、昨年度に公表した論文にて、Perifornical area of the anterior hypothalamus (PeFAH)と改め直し公表した(Eur. Horii-Hyashi et al., Eur. J. Neurosci. 2015)。以下の記した成果内容については本領域をPeFAHと称する。 ①ストレスによるUrocorftin 3、Enkephalin遺伝子の発現変化 PeFAHには、urocortin3とenkephalinを共発現するニューロンが存在する。30分間の拘束ストレスを与えたマウスのPeFAHにおけるUcn3とPenk1の発現をreal time PCRにて調べたが、両遺伝子ともにストレスの影響は認められなかった。 ②光遺伝学もしくは薬理遺伝学を用いたPeFAHニューロンの機能解析 光遺伝学システムの立ち上げと薬理遺伝学実験を用いた行動解析を並行して行っている。両実験共に、Ucn3遺伝子のプロモータ制御下でcre recombinaseを発現するUcn3-creマウスを用い、これらマウスのPeFAHにcre依存的にhM3Dqもしくはchannel rhodopsin 2を発現するアデノ随伴ウイルスをインジェクションしている。薬理遺伝学的にPeFAHニューロンを活性化したマウスの不安様行動、新奇物体探索、ホームケージ内行動について調べたところ、不安様行動に変化は認められなかったが、新奇物体試験においては体を伸展させ物体探索を行うストレッチド アプローチ行動が有意に増加していた。また、ホームケージ内においては掘り様行動が誘発されることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子発現の解析については予定通り行い、実験結果は取得済みである。また、遺伝学的手法を用いた行動解析については、研究計画時は、光遺伝学システムの立ち上げがうまくいかない場合の方策として、薬理遺伝学実験への切り替えを予定していたが、実際は、薬理遺伝学の実施と、光遺伝学システムの立ち上げを並行して行うことが出来た。 薬理遺伝学によって得られた結果は、申請者の当初の予測とは異なっていた。申請者は当初、PeFAHニューロンの活性化は、不安様行動を上昇させると過去の研究から推察していたが、明暗箱試験、オープンフィールド試験、高架式十字迷路試験、すべての試験において不安レベルへの影響は認められなかった。しかし、予想外ではあるが、新奇物体へ体を伸展させながら接近または臭いをかぐストレッチドアプローチ行動を有意に増加させ、また、ホームケージ内では穴掘り様行動を誘発することが明らかになった。ストレッチドアプローチ行動は、齧歯類においては“リスクアセスメント行動”の1つと考えられ、警戒の情動を示ていると考えられる。 また、ホームケージ内で誘発された穴掘り行動は本能行動の1つと考えられ、視床下部がその責任領域であることは十分に推察される。しかし、実験マウスにおける穴掘り行動の目的や動機づけとなる情動、またその行動を制御する神経回路に関する知見はほとんど無い。申請者の実験結果から推察すると、少なくともPeFAHニューロンの活性化が元となって誘発される穴掘り様行動は、不安が動機づけとなって行われているわけではなく、リスクアセスメント行動の一環であり、警戒という情動が動機づけに関与する可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後の実験方針は、本研究で観察された結果の妥当性(正確性)を多角的な視点から調べることである。ネガティブコントロール実験の積極的な取り入れ、行動試験の追加、ホルモン測定等を考えている。 (1)3種の行動試験の追加:不安様行動と新奇物体試験に加え以下の試験を行う。①ソーシャルインタラクション試験にて、面識のないマウスに対する行動(ストレッチドアプローチ含む)を測定する。②「リスクアセスメント行動誘発時には、摂食や性行動といった本能行動は抑制傾向になるのではないか」という仮説を基に、PeFAHニューロン活性化時におけるこれら行動を測定する。③本実験で誘発される穴掘り行動が縄張り内(ホームケージ)特有の行動であるか否かについて、新規ホームケージにおける穴掘り行動を測定する (2)抑制系薬理・光遺伝学実験の取り入れ:薬理・光遺伝学的にPeFAHニューロンの活動を抑制し、(1)で示した行動試験を行う。 (3)ネガティブコントロール実験:PeFAH以外のUcn3発現領域(視床下部室傍核や内側扁桃体)を薬理遺伝学的に操作し、(1)と同様の試験を行う。 (4)ストレスホルモン・自律神経活動の測定:PeFAHニューロンを薬理もしくは光遺伝学的に活性化させた際の血中コルチコステロン濃度とノルアドレナリン濃度を測定する。
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