研究課題
本研究の目的は、我々が最近、マウス脳に発見した視床下部領域、“Perifornical area of the anterior hypothalamus” (PeFAH)の機能を解明することである。特に、PeFAHニューロンは、ストレス誘発性不安の制御中枢として知られる外側中隔へ投射することから、ストレス応答や不安情動との関連に着目して研究を進めた。PeFAHには、Urocortin3(Ucn3)とEnkephalin(Enk) を共発現するニューロンが存在する。これら神経ペプチドの発現量が急性拘束ストレスにより変化するかどうかについて、リアルタイムPCR法により調べた。しかし、両ペプチドの発現量に変化は認められなかった。次に、PeFAH Ucn3/Enkニューロンの神経活動を薬理遺伝学の手法により活性化し、種々の行動試験を行った。Ucn3/Enkニューロンを活性化したマウスは、ホームケージ内にて激しく床敷きを掘り返し、一定の箇所へ高く盛る行動を示した。オープンフィールド試験、明暗箱試験、高架式十字迷路試験によって不安レベルを測定したが、いずれの試験においても差異は認められなかった。しかし、新奇物体遭遇試験を行った結果、Ucn3/Enkニューロンの活性化は、新奇物体に対するリスクアセスメントを促進し、また、床敷き存在下では物体を埋めるBurying行動を促進した。これらニューロンの活性化が、血中コルチコステロン濃度に与える影響を調べたが、影響は認められなかった。新奇物体に近付き情報を得ようとするリスクアセスメント行動や物体を埋める行動は、未知物体に対する積極的な防御行動の1つであると考えらる。以上の結果から、PeFAH―外側中隔神経回路は、新規空間に対する不安やストレス応答ではなく、新規物体に対する警戒心やそれに対する積極的な防御行動を制御している可能性が示された。
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