本研究は運動途中で経由点を通過するような運動タスクにおける利き手と非利き手の違いについて調べた。先行研究において到達運動の実行中に未知の負荷が外乱として加わるとき、利き手よりも非利き手の方が外乱の影響を受けづらいという報告を踏まえて、本研究では運動中に未知の粘性抵抗を外乱としてランダムに加えて実験を行った。運動中のフィードバック制御の影響を抑えるため、運動中の手先位置は非表示とした。 運動中に外乱が加わらない条件では、利き手と非利き手で運動軌道の経路の形状に有意な差があり、非利き手の方が身体の外側に膨らんだ経路の軌道を生成していた。また、非利き手の方が運動全体にわたってより多くの関節トルクを生成していた。運動パフォーマンスの指標の一つとして考えられるタスクとして課した経由点及び終点に関する軌道の誤差(各点と軌道との距離で定義)について、経由点については非利き手の方が誤差が大きかったが、終点については有意な差はなかった。一方、運動中に外乱を加えた場合、運動開始直後の軌道の経路の形状にのみ利き手と非利き手の間に有意な差はあったが、それ以外は外乱が加わらないときに生じた利き手と非利き手の間の有意な差は見られず、両者の運動は同じような傾向を示した。外乱の有無と手の左右を要因とした二元配置分散分析によれば、経由点の誤差について利き手の方が外乱の影響を受けやすいことが明らかになった。 本研究の結果より以下のことが予想される。(1) 利き手と非利き手の運動の違いは運動計画の時点でも生じている。(2) タスクで課した位置を補足するための制御のやり方が経由点と終点で異なる。(3) 粘性力場の運動では利き手と非利き手の差が小さくなる。今後はこれらの予想について計算機シミュレーションなどと併せて検討していく。
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