研究課題/領域番号 |
15K21310
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研究機関 | 長崎県立大学 |
研究代表者 |
岡本 恭子 長崎県立大学, 看護栄養学部, 助教 (40714853)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | Incomplete Autophagy / Lipid-induced UPR / 栄養成分による癌予防 |
研究実績の概要 |
ゲラニルゲラノイン酸 (GGA) は薬効のあるハーブなどに存在する天然のジテルペノイドの1つである。ヒト肝癌由来細胞であるHuH-7細胞において、GGA添加によって細胞死が誘導される。しかし同時に本来細胞の生存に寄与するオートファジー(細胞内の内容物を分解することでエネルギーや体の構成分の元となる栄養素などを供給する)の誘導も生じていた。詳細に調べるとGGAはオートファジーの初期段階を誘導し、後期段階であるオートファゴソーム(飢餓時などにオートファジーによって形成される。細胞の内容物を取り込む袋状の細胞小器官)とリソソーム(細胞内に存在する分解酵素を多く含んだ袋状の細胞小器官)の融合は誘導できないことを見出した。GGAはオートファジーの後期段階を誘導できない為、“incomplete autophagic response”いわゆるオートファジーの不完全な応答を誘導し、本来生存に寄与するオートファジーが完結できないことが細胞死に関与していると推測し、GGAのオートファジー調節を介した肝癌予防に寄与する細胞死誘導という観点からメカニズムを明らかにし、天然に存在する栄養成分として臨床研究を展開するための基礎的研究基盤を確立することを目的として、初年度はGGAが誘導するオートファジーの不完全応答が起こるオートファジーの後期段階について詳細に調べ、オートファゴソームとリソソームの融合により形成されるオートリソソームの成熟に重要な役割を果たすことが知られているRAB7たんぱく質の機能障害をGGAが誘導する可能性を見出した。RAB7たんぱく質はリソソームに主に存在し、オートファゴソームとの融合の際、オートファゴソームに存在するLC3-IIたんぱく質と結合することが知られている。しかしながら、GGAの添加によりその結合が阻害されることをRAB7抗体を用いた免疫沈降法によって見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HuH-7細胞へのGGAに添加によって、発現量などに変化が生じるたんぱく質を網羅的にプロテオーム解析によって検出することを計画していたが、中間報告でも報告したようにソフトの金額のから購入ができなかった為、この点の研究が進んでいない。現在は大学の予算での購入を依頼している。 しかしながら、オートファジー調節に関与するRAB7たんぱく質のGGAによる機能障害が起こることを発見できたので、焦点を当てるたんぱく質を介しての研究を進めることができている。他に、オートファジー観察用肝癌細胞の作製を計画していたが、細胞株によっては目的のたんぱく質の発現量が低く、研究には用いにくい細胞があったので、作成できた細胞について研究を進めた。オートファジー関連遺伝子のノックアウト肝癌細胞の作製については、RAB7たんぱく質のノックアウト細胞の作製を進めているが、まだできていない。そこでRAB7たんぱく質の機能阻害の働きを持つたんぱく質を発現させた細胞(RAB7の働きが無くなった細胞)を作製し、研究を進めている。また、メタボローム解析は行っているので、GGA添加後の代謝産物の変化を追うことで、その産物の産生などに関与すると思われる代謝経路に関与するたんぱく質についてのプロテオーム解析を外注することも検討している。また、オートファジー調節を介した細胞死メカニズムの解明を行っている際に、細胞死に関与する機序の一つであるERストレス応答もGGAによって誘導されることが見出されたため、基礎的研究基盤を確立するという本研究の目的に寄与する研究成果が得られたと考える。さらに、平成28年度の計画していた計画していたp53たんぱく質とオートファジーの不完全な応答の誘導との関連に関する研究のための細胞の作成などを行っており、おおむね順調に研究が進捗していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、1.平成27年度の研究で滞った研究の完成として、(1)プロテオーム解析によるGGA添加に伴うオートファジー関連たんぱく質の特定を予定していたが、メタボローム解析によるGGA添加に伴う代謝産物の変化から関連たんぱく質の特定を行う。(2)オートファジー関連たんぱく質のノックアウト細胞の作製に関しては、RAB7たんぱく質のようにキーとなるたんぱく質が見出された場合、そのたんぱく質のノックアウト細胞を作製し、研究を進める。 2. p53たんぱく質とオートファジーの関連の検証としては、p53変異細胞株、p53野生型細胞株を作製しているので、その細胞についてGGAの添加によって、p53と関与するタンパク質の変化を免疫沈降法などによって検証する。 3. GGA添加によるERストレスのメカニズムの解析としては、新たに見いだされた細胞死に関連するERストレスのGGAの作用機序を明らかにする。 4. 肝癌細胞以外のヒト癌細胞株での検証に関しては、GGAによるオートファジーの不完全な応答、ERストレスの誘導などが生じるかを検証する。GGAは肝癌予防効果が期待されているが、細胞株によって効果が見られない場合もあるので、どの様な細胞に効果があるかを検証する。 5. RAB7たんぱく質の修飾による作用の検証に関しては、たんぱく質の多くはリン酸化やアセチル化などの修飾を受けることによって作用が抑えられたり、促進されたりする。RAB7たんぱく質はゲラニル化を受けることでリソソームなどの膜に存在することができる。ゲラニル化の阻害剤とGGAを一緒に作用させることで、オートファジーの調節に変化があるかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に購入を予定していた解析ソフトの購入を交付決定額を鑑み、大学予算での購入での申請へ変更したため、その分は使用せずに残る形となった。 また、多量に使用している細胞培養に係る試薬、使い捨ての培養器具に関しては、職務で行っている他の研究に関する研究費から使用したこと、また研究協力者の四童子好廣教授との共用であるため、その分も残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度分へと請求し助成金と合わせた使用計画としては、メタボローム解析によって見出された代謝産物の同定を行うため、その代謝産物と思われる化合物の購入に用いる。また、解析を行う際、試料を処理するための試薬の購入や、分析にかける際のLC-MSグレードの試薬が必要なので、これらの試薬の購入に用いる。 また、前年度より引き続きノックアウト細胞の作製を行っているが、作成にあたり何種類かのオリゴをデザインし、その中から目的のたんぱく質をノックアウトし、なおかつ他のたんぱく質の発現量に影響を与えない細胞を選ぶため、多くの時間と細胞培養に係る試薬、器具類を必要とするため、オリゴ、細胞培養試薬・器具の購入に使用する。 また、金額が妥当であれば、メタボローム解析から得られた結果から関連のありそうな代謝経路に関与するたんぱく質に関するプロテオーム解析を外注する機会を検討し、できるようであれば、外注費用として使用する。
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