研究実績の概要 |
本研究では、受精が起こる場である卵管に含まれる高濃度のNa+が哺乳類精子の受精能獲得へ与える影響を明らかにすることを目的として,ハムスターを用いて研究を行っている。昨年度までの研究の成果から、細胞外Na+がハムスター精子の超活性化を抑制すること、またその抑制はNa Ca Exchanger (NCX)の働きを介して起こっていることを明らかにしてきた。また、Na/K ATPase (NKA)αサブユニットの精巣特異的なアイソフォームであるα4を阻害すると超活性化が阻害されることから、NKA α4の活性がハムスター超活性化運動の発現に必須であることも明らかにした。 本年度の研究により、RNA-seq解析により得られた配列データ、及びそれらの配列をもとにRT-PCRを行った結果から、ハムスター精巣においてNCX1及びNCX2、NKAα1及びNKAα4のmRNAが発現していることが分かった。またウェスタンブロッティングにより、NKAα1及びNKAα4のタンパク質レベルでの発現が確認された。次にNKA α4の阻害による超活性化の阻害はどのようなメカニズムで起こっているのかを調べるために、リン酸化酵素の活性化剤や脱リン酸化酵素の阻害剤を用いた実験を行った。その結果、チロシンリン酸化を介した制御とは無関係の経路でNKA α4が超活性化を制御していることが分かった。さらに卵管内の体液には20 mMもの高濃度のK+が含まれることから、その高濃度K+によるハムスター精子の膜電位及び受精能獲得への影響を調べた。すると、高濃度K+により膜電位が有意に脱分極するにもかかわらず、受精能獲得および受精には影響がないことを明らかにした。 これらの結果は、細胞外Na+が、膜電位の制御やチロシンリン酸化シグナルとは無関係な経路で受精能獲得を調節していることを示唆している。
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