前年度までに新規ホウ素脂質(PBL)修飾リポソームへの高濃度ホウ素化合物(BSH)の封入および粒子としての高い血中安定性を報告した。 最終年度は本化合物を用いて、in vivoにおける体内動態および熱中性子線照射による抗腫瘍効果に関して検討を行なった。腫瘍細胞(CT26:マウス大腸癌細胞)を皮下移植した担癌マウスにPBL修飾リポソームを尾静脈より投与し、その後各時間ごとに無作為に3匹を選出し、採血ならびに臓器を摘出後、ICP(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)で組織内ホウ素濃度を測定した。結果、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において薬剤に必要とされる腫瘍内ホウ素濃度(>20ppm)を達成した。特に投与24時間後においては腫瘍/血液比および腫瘍/正常組織比において高い値(>5)を示し、BNCTにとって有用な薬剤となり得ることが示唆された。 さらに本化合物を担癌マウスに投与後24時間および48時間に中性子線を照射し(5.2×10^12 thermal neutron for 120min)、経時的に腫瘍径を測定することで、その腫瘍サイズを算出した。その結果、著しい抗腫瘍効果が観察され、11日目以降において対照群(照射のみ群、BSH投与群)と有意差を持つことが確認できた。しかしながらBSHを封入することによる治療効果増強は確認できなかった。 また、照射後26日経過したマウスの各組織 (腫瘍、肝臓、腎臓)においてHE染色を行ない、薬剤と中性子線照射における治療効果と副作用について病理学的検討を行なった。その結果、肝臓と腎臓への影響はほぼ見当たらず、腫瘍においてはBNCTによる腫瘍縮退部位が観察された。
|