支援リソースや専門家の不足している海外日本人学校において、多様なニーズを持つ子どもに対する支援を効果的に行うため、日本の心理士がどのようにサポートできるのかを模索した。具体的には日本人心理士によるパッケージプログラムを支援の一モデルとして提案し、その実施可能性と効果および限界を検討した。パッケージプログラムは1年に1~2回のスカイプ会議と、一週間程度2回の巡回支援からなる。 実際に現地訪問することで、学校側の心理士の受け入れに変化があった。心理士が学校の置かれているその国ならではの特殊な環境を理解して共有できたこと、そして教員や子どもたちの様子を実際に見られることは、心理士の妥当な助言や介入を可能にした。それにより、心理士と教職員、保護者との間に信頼関係が構築され、更に、ケース検討や雑談・交流場面を重ねることで関係性は強化されていき、チームとしての支援体制が出来上がった。また、自傷・他害のケースや重篤な精神疾患などケースが出てきた際に、危機介入を適切に行うことができたことも大きな成果であった。そして、そういった「有事」の対応を積み重ねることで、教職員の不安は低減され、心理士に対する信頼や積極的に相談をしようとする姿勢が増大していった。しかし、今後の支援継続の強い希望があるものの、海外日本人学校は日本人会からの援助と学費から成り立っており、小規模日本人学校では財源の確保の困難が最も大きな障壁となっている。また、教員からは顔を合わせて、また児童・生徒の様子を実際に心理士に見てもらいながら相談をしたいという要望が強いこと、また、重篤なケースであることが明らかである場合を除いて、インターネットで心理士に相談をすることはハードルが高いことも明らかになり、年に2週間ほどの訪問では時間的に十分ではないことも問題として明確になった。
|