本研究の目的は、経済成長と環境保護の両立が迫られてきたラテンアメリカの新興諸国において、気候変動政策を実施する制度改革がどのように進展してきたのかを明らかにすることである。この目的を遂行するために、ブラジルとメキシコの事例を取り上げて政府・企業・市民の間で形成される政策ネットワークの役割を手掛かりとして、気候変動政策をめぐる政治過程の差異を分析する。研究最終年の29年度は、2年目までに実施してきたラテンアメリカの環境政治に関する文献収集・整理を生かして論文の執筆作業が中心となったが、途中、事実関係を説明する資料を得るための補足調査の必要性から、以下2点の現地調査を実施した。 (1)メキシコのメキシコ大学院大学を中心に調査を実施し、メキシコ政治と環境政治に関する文献を収集しながら、大学教員・専門機関の研究員・IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のメンバーでメキシコの気候変動政策の策定に関与する科学者に聞き取り調査を行った。その結果、大統領と官僚に権限が集中する政治制度の効果によって、メキシコの気候変動政策とエネルギー政策という異なる目標の間で利害が調整されるメカニズムの詳細と、政策に関与する環境保護団体や石油産業の活動などがより明らかになった。 (2)ブラジルのブラジリア大学を中心に資料取集のための調査を実施した。その結果、メキシコの政策決定過程との類似点と差異を明確にする一次資料を入手することができた。 なお、本年度の成果はアメリカのサンフランシスコで開催されたInternational Studies Association(国際学会)を含む学会・シンポジウム5件で公表した。3月末には本研究課題と密接に関係する博士論文の審査の結果、博士(国際関係論)を取得した。この事実は、本研究の進捗状況がおおむね順調であったことを示す証左といえる。
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