本研究は,既存の集団の枠(境界)を越え,異質な人々が緩やかに繋がり学び合い,時に組織変革や社会変化を目論む「越境活動」に焦点を当て,その内実の解明,実践,理論構築を行うものである。調査対象として,A)職場,B)職場外,C)社会活動の三つの種類のフィールドについて,観察調査,アクションリサーチを行う。 最終年度にあたる本年度は,A)職場(病院)での異部署間越境に関するアクションリサーチの成果,B)職場外にて,社会人がビジネススキルを活かしてNPO法人の支援を中心に行うボランティア活動(プロボノ)に関する質的調査,C)貧困層や孤立する青少年のための社会活動や,地域コミュニティ活動についての質的,量的調査や実践開発の成果を統括して,国際シンポジウムや著書等にて発表を行った。 A)では,トップダウン的意思決定から,各部署の諸成員の多様性,異質性が交わりながら,それまでの組織的慣習では活用されにくかった諸資源が発掘されながら,既存の制約や諸矛盾を創造的に乗り越えていくミクロな対話過程を解明した。B)では,経済資本の文脈に埋め込まれたビジネススキルを,非経済的で互恵的な社会関係資本の文脈に転換していく際に見られる,不確定性,両者間のコンフリクト,日頃の職場環境での創造性の抑圧からの解放等を示した。C)では,各コミュニティにて促進されていた青少年や成人のエンパワメントの過程について,遊び,共愉性,特異性間の創造的結合,そして金銭的資本に基づく既存の社会的諸関係に対し,そのネットワークの再編成あるいは創造的な転倒(金銭資本を互酬関係に従属させる実践の創出)の実態を明らかにした。 これらをふまえ,かつ従来の活動理論含む学習論を概観し,そこに柄谷行人やネグリらの哲学を発展的に交差させて,創造的交換論として総括し,資本制偏重の社会に代わりうる「次の社会」の可能性を検討する研究の方向性を提案した。
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