研究課題/領域番号 |
15K21356
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
齊野 廣道 青山学院大学, 理工学部, 助教 (40525549)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 多剤耐性菌 / カルバペネム / ラクタマーゼ / 抗菌薬 / アシネトバクター / OXA-58 |
研究実績の概要 |
細菌の薬剤耐性機序の一つである β-ラクタマーゼは、β-ラクタム系抗菌薬を加水分解して不活化することで薬剤耐性の原因となる。カルバペネム系抗菌薬は広い抗菌スペクトルと高い抗菌活性に加え、β-ラクタマーゼに分解されにくいことから薬剤耐性菌に対する切り札とされてきた。しかしカルバペネム分解活性を獲得した β-ラクタマーゼ (カルバペネマーゼ) を産生するカルバペネム耐性菌が出現してから、カルバペネム耐性菌に有効な抗菌薬は開発途上にある。本研究では多剤耐性アシネトバクター由来のカルバペネマーゼ OXA-58 の X線結晶構造解析を行い、カルバペネム分解の構造基盤を解明することで新規抗菌薬の開発に資することを目的としている。 OXA型カルバペネマーゼは触媒残基としてセリンとリジンの二つのアミノ酸を持ち、さらにリジンの側鎖のアミンが、炭酸イオン存在下でカルボキシ修飾されることでカルバペネマーゼ活性が上昇する。本研究では、OXA型酵素の特徴であるカルボキシ修飾リジンについて、構造と機能の両面から X 線結晶構造解析と酵素学的解析によって研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
OXA-58 を炭酸イオン存在下で結晶化し、X線結晶構造解析によって分解能 1.8 Å の結晶構造を得た。結晶構造中で活性残基のリジンはカルボキシ修飾されており、活性部位内でカルボキシ基はもう一つの活性残基であるセリンに加え、OXA型酵素に保存されているトリプトファン残基とも水素結合しており、この水素結合のネットワークが水中で通常では不安定なカルバミン酸を安定化していることが示唆された。実際に、セリンとトリププトファンをアラニンに置換した変異体において活性と熱安定性が大きく低下し、カルボキシ修飾リジンを安定化する水素結合の形成は、OXA-58 の機能と構造の両面で重要であることが示された。活性の炭酸濃度依存性を評価すると、野生型はサブミリモル濃度の EC50 を示し、25 mM 程度の生理的炭酸イオン濃度で OXA-58 は十分にカルボキシ化され活性化状態にあると示唆された。 さらに、OXA-58 の基質結合部位の構造は、既報の結晶構造とは異なっており、基質結合部位に可動性があることが示唆された。特に基質結合部位を形成するループの構造が異なっており、この可動性のループが様々な基質の構造に適合することが、カルバペネムを含む β-ラクタム薬に対する多剤耐性の構造基盤であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
β-ラクタマーゼうち触媒残基としてセリンを持つセリン β-ラクタマーゼは、一般に反応中間体としてセリンと反応中間物が共有結合したアシル中間体を経て加水分解される。クラス A, C, D に分類されるセリンβ-ラクタマーゼのうちクラス A の酵素は、結晶構造解析において加水分解反応の水分子が結合した構造研究が進んでいるが、OXA型酵素が属するクラスDでは、アシル中間体構造が数例報告されているもののいずれも加水分解反応の水分子は観察されておらず、加水分解の過程において特に触媒残基として働くと予想されるカルボキシ修飾リジンと水の結合は未だ不明である。今後はアシル中間体の結晶構造解析を含めて加水分解過程におけるカルボキシ修飾リジンの寄与を明らかにするべく研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が概ね順調に進み、実験条件の検討に必要な実験用試薬や器具などの消耗品や、分析機器のメンテナンスを含めた消耗品のコストが下がったため。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度分の助成金と合わせて、計画時には予算の都合上見合わせていた、より多角的・発展的な実験や分析を行うことで、研究目的の達成に役立てる。また論文発表時にオープンアクセスに必要な料金の支払いに充てるなど、研究成果の公知に役立てる。
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