OXA-58 はアシネトバクター (Acinetobacter baumannii) が産生する β-ラクタマーゼであり、カルバペネムを含む様々な β-ラクタム系抗菌薬を加水分解する多剤耐性の原因酵素である。多剤耐性を獲得したアシネトバクターは特に抵抗力の低下した重病患者において呼吸器感染症や尿路感染症などを引き起こし、β-ラクタム系抗菌薬の最後の切り札と言われるカルバペネムに対しても耐性を示すことから近年強く警戒されている。 OXA-58 を含むカルバペネマーゼは、カルバペネムの酵素阻害機能を回避して加水分解反応を進行するが、その反応機構は未だ不明な点が多い。特に OXA-型のクラス D β-ラクタマーゼは、活性残基の一つであるリジン末端のアミノ基が、炭酸イオン存在下でカルボキシ化される。本研究ではカルボキシ化状態の OXA-58 の結晶構造解析によってカルバペネム分解の構造基盤を研究した。 分解能 1.8 Å の結晶構造から、カルボキシ修飾リジンは水素結合ネットワークを形成することで安定化すると同時に、タンパク質構造の熱安定性も大きく向上させることが明らかとなり、このカルボキシ修飾による活性化/安定化がカルバペネム耐性を高めていることが示唆された。このカルボキシ基は加水分解において水分子の活性化を触媒すると考えられているが、水分子の結合サイトは未だ不明であり、今後は触媒水の取り込みと活性化機構の点からカルバペネム加水分解の機構解明を進めていく予定である。
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