本研究の目的は、戦前期における中・上層女子の「音楽のたしなみ」の文化資本効果を実証的に明らかにすることにある。 平成28年度は、教育史、音楽史、芸能史、女性史等関連分野の先行研究の整理と、前年度までに蒐集した東京府内の旧制高等女学校の学校沿革史や校友会雑誌・同窓会雑誌、婦人雑誌・少女雑誌(論説、グラビア、付録等)、家政書・修養書、礼儀作法書等における音楽関連記事の内容分析による総合的考察から、①近代化の過程で、近世以来から存在していた女子のたしなみが家庭の「趣味」としての公的な意味づけを与えられたこと、②明治後期から大正期にかけ、「趣味」の意味として“Taste”に“Hobby”が加わる過程で、「趣味」が女子にとって量的に確保すべき対象として位置付くようになり、和洋折衷化と修養化を果した構造、③①②の一方で、たしなみを通じた家族・友人との交際・社交像の西洋化が果されなかったため、披露より習得を重視するたしなみ像が普及した可能性、を明らかにした。これらの知見から、①’女子教育史研究における伝統的教養の位置付け、②’近代日本の「子どものジェンダー」を考察する際の「少女/家の娘」による規範の異同、③’「学校/家庭/社会(通俗)教育」の区分が形成されていった日露戦争後~第一次世界大戦期における女子にとって「趣味」の受容、の再検討の必要性を提起した。 本年度の研究を通じて、「文化定義のジェンダー化」の観点から、戦前期の中・上層女子の「音楽のたしなみ」の文化資本効果を明らかにできた一方、「ジェンダー・ハビトゥスの身体化とジェンダー資本の蓄積」「ジェンダー化した文化実践」の実態の解明が課題として残った。
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