研究課題
MPPAC細胞と非MPPAC細胞の遺伝子発現の比較を行うため、A549、LC2/ad、及びMPPAC細胞を用いて、GeneChip Human Genome U133 Plus 2.0による遺伝子発現アレイ解析を行った。結果、MPPACのみで発現していた遺伝子は1430個検出され、神経内分泌特性と関わりの深いINSM1やASCL1といった遺伝子が高発現していた。また、上記で検出した遺伝子群の制御機構を確認するため、同じ細胞株のtotal RNAを用いてmicroRNAを対象としたアレイ解析を行った。結果、MPPACのみに発現が認められたmicroRNAは34種、一方、MPPACのみに発現が認められなかったのは26種であった。MPPAC細胞で高発現していたmicroRNAには肺腺癌でRhoGDI1やALCAMを標的として浸潤や転移を促進するmiR-483-5pも含まれていた。遺伝子発現アレイ解析とmicroRNA array解析の結果の関連性についてはデータベース検索と文献を中心に鋭意調査中である。さらに、MPPACの発生のメカニズムや起源などの生物学的特性の解明や肺癌の癌幹細胞マーカーの獲得を目的として、山中4因子であるSox2、KLF4、Oct3/4、c-Mycをウイルスベクターを用いてMPPAC細胞に導入するという手法を用いた癌幹細胞化の検討を行った。これら4因子を加えた細胞は親株であるMPPAC細胞に比べ、癌幹細胞性の指標となるアルカリフォスファターゼやアルデヒドデヒドロゲナーゼ、ABCG2、nestinといった発現が高く、また肺の発生の初期にしか発現しないpodoplaninを発現していたことから、この細胞を癌幹細胞の特徴を有するMPPAC-4F細胞として樹立した。このMPPAC-4F細胞と親株であるMPPAC細胞を比較することで、癌幹細胞の特徴を示す遺伝子あるいはタンパク質が同定可能であると考え、現在、両者のタンパク質を用いた2次元電気泳動法による発現解析を行っている。その結果、両者で発現量に1.2倍以上の差を認めたタンパク質スポットは96個存在した。現在、これらのスポットのタンパク質同定を進めている。
3: やや遅れている
昨今、癌組織中に存在する癌幹細胞は治療や浸潤・転移など癌の悪性度に関与していることが多くの論文で報告されている。しかしながら、組織中の癌幹細胞は非常に少数であり、組織を用いた検討では純粋な癌幹細胞の研究は難しい。そこで我々はMPPACの生物学的特性の理解を深めること、さらに肺癌の癌幹細胞マーカーの獲得を目的として、山中4因子であるSox2、KLF4、Oct3/4、c-MycをMPPAC細胞にウイルスベクターを用いて導入したMPPAC-4F細胞株の樹立を行った。樹立したMPPAC-4F細胞の癌幹細胞性を確認するため免疫染色や免疫ブロット法などの検討やマウス移植腫瘍を用いた確認実験など、これらの検討に時間を割く必要があった。そのため、アレイ解析により選出された個々の遺伝子に対する浸潤や転移との関連性の評価を行うまでには至らなかった。
次年度はアレイ解析にて抽出された遺伝子あるいはタンパク質の発現を肺癌組織上で確認し、マーカーとしての有用性を評価すること、また有用性の高い分子から順々に浸潤や転移との関連性を培養細胞を用いた実験系で確認していく。さらに、樹立したMPPAC-4F細胞と親株であるMPPAC細胞を用いた2次元電気泳動法による比較解析をするめるとともに、両者の遺伝子の発現を遺伝子発現アレイ解析を用いた比較を行う。これらの結果、差のあった遺伝子やタンパク質については癌幹細胞マーカーとしての有用性や予後予測マーカーとしての有用性を評価していく。
癌幹細胞の樹立のための作業やその癌幹細胞性の確認に多少時間がかかり、アレイ解析で得られた分子の解析が多少遅れており、選出された分子に対する抗体を用いた解析まで至らず、使用額が少額となったため。
次年度は、アレイ解析で選出された分子の解析、並びにMPPAC細胞とMPP-4F細胞を用いたタンパク質発現解析にて選出された分子に対する抗体の購入費用やその他消耗品に使用する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (3件)
Asian Pac J Cancer Prev
巻: 17 ページ: 289-294
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Lung Cancer
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10.1016/j.lungcan.2015.08.015.