研究課題/領域番号 |
15K21361
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
齋藤 康昭 北里大学, 薬学部, 助教 (00631730)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | D-セリン / 線虫 / 耐性幼虫 / セリンラセマーゼ |
研究実績の概要 |
ヒトを含めた哺乳類の中枢神経系には高濃度のD-セリンが存在する。D-セリンはNMDA型グルタミン酸受容体を介して高次の脳機能に重要な働きをしていることが示唆されている。これまでに申請者は、線虫の休眠状態に相当する耐性幼虫では正常発生した幼虫と比較して、D-セリン含量が著しく増加しており、D-セリンが線虫の成長・寿命の調節に何らかの役割を果たしている可能性を見出した。本研究では、実験的解析が容易な線虫を用いて、これまで知られていなかったD-セリンの生理機能を明らかにするための解析を行い、ヒトを含めた哺乳類におけるD-セリンの新奇な機能の解明のための手がかりとしたい。 本年度は、次の2つの研究を進めた。 1)耐性幼虫体内のD-セリンの定量:耐性幼虫の形成を決定する複数のシグナル伝達経路の各変異体(daf-2、daf-7およびdaf-9)の耐性幼虫いずれにおいてもD-セリン含量の著しい増加が認められた。また、長期間培養した耐性幼虫体内のD-セリン含量は高レベルに維持され、耐性幼虫から正常発生へ復帰した線虫ではD-セリン含量の低下が認められた。すなわち、D-セリンが耐性幼虫の形成や維持の調節に何らかの役割を果たしていることが示唆された。 2)セリンラセマーゼ遺伝子の探索・同定:哺乳類セリンラセマーゼと相同性がある線虫遺伝子のうち、T25D3.3遺伝子の変異体の耐性幼虫における発現量は正常発生した幼虫と比較して増加していた。T01H8.2、Y51H7C.9およびT25D3.3変異体の耐性幼虫体内のD,L-セリン含量に変化は認められなかった。一方、K01C8.1変異体ではD,L-セリン含量の増加が認められた。このことから、K01C8.1はD,L-セリンの両方、またはいずれかに分解活性を持つことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に計画していた、耐性幼虫の形成を決定する複数のシグナル伝達経路の各変異体の耐性幼虫、長期間培養した耐性幼虫、および正常発生へ復帰した線虫体内のD-セリン含量の定量が予定通り進展している。また、耐性幼虫においてD-セリン含量が低下する変異体を見出すことができなかったが、D-Ser含量が増加する変異体としてK01C8.1変異体を見出した。これらの研究結果より、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画通り、大腸菌で発現させたK01C8.1組換え体の酵素学的性質を解析する。GFPをレポータータンパク質としたK01C8.1遺伝子の発現解析、およびK01C8.1変異体の耐性幼虫形成率や正常発生への復帰率、寿命など成長や老化に関連する表現型の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
少額のため消耗品を購入することができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の消耗品費として使用する。
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