平成28年度は、次の3つの研究を進めた。 1)K01C8.1遺伝子産物の酵素学的性質の決定:C末にHisタグを付加させたK01C8.1遺伝子産物を発現する大腸菌を樹立した後、可溶性画分を調製し、ニッケルカラムを用いて組換え体の精製を行った。精製した組換え体の種々のアミノ酸に対するデヒドラターゼ活性を測定した結果、L-セリンに対してデヒドラターゼ活性を持つことが明らかになった。また、種々のアミノ酸に対するラセマーゼ活性は示さなかった。これらのことから、K01C8.1はL-セリンデヒドラターゼであり、K01C8.1欠損変異体の耐性幼虫では、L-セリンに対するデヒドラターゼの欠損の結果、L-セリン含量が増加し、セリンラセマーゼを介したD-セリン含量の増加が引き起こされたと考えられた。 2)K01C8.1の発現時期・組織の同定:K01C8.1遺伝子のプロモーター活性により赤色蛍光タンパク質mCherryを発現する線虫形質転換体を作製し、蛍光観察を行った。K01C8.1は、正常発生した幼虫および耐性幼虫のいずれの成長段階においても腸および下皮で発現することが明らかになった。 3)K01C8.1欠損変異体の表現型の解析:K01C8.1;daf-2変異体の耐性幼虫形成率は、daf-2変異体と同程度であった。また、正常発生への復帰率に明らかな違いは認められなかった。 平成27年度および平成28年度の結果から、D-セリンは耐性幼虫の形成や維持、正常発生への復帰に関与していること、また、K01C8.1はL-セリンデヒドラターゼであり、D-セリン合成に間接的に関与していることが明らかになった。
|