研究課題/領域番号 |
15K21370
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
森脇 康博 慶應義塾大学, 薬学部, 講師 (00392150)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 乾癬 / IL-22 / SLURP-1 |
研究実績の概要 |
遺伝性掌蹠角化症の一種であるMal de Meleda病(MDM病)の原因遺伝子として、SLURP-1が同定されている。一方で、SLURP-1の乾癬などのMDM病以外の皮膚疾患との関連については未だ明らかにされていなかった。本年度は、SLURP-1の乾癬への関与についてイミキモド(imiquimod : IMQ)塗布による乾癬モデルマウスを用いて検証実験を行った。 IMQを背中に塗布されたマウスでは紅斑や鱗屑、角質の肥厚といった乾癬の症状が確認され、その病変部においてSLURP-1はmRNAおよびタンパク質レベルの両方において有意に発現増加が確認された。有棘層から顆粒層にかけてSLURP-1の発現が確認されたことから、ケラチノサイトでSLURP-1の発現が増加していると考えられたため、次に正常ヒト表皮角化細胞(Normal Human Epidermal Keratinocyte : NHEK)を用いてSLURP-1の発現増加因子の探索を試みた。乾癬では、IL-17、IL-22、IFN-γなどの炎症性サイトカインの発現が亢進していることが知られている。そこで、NHEKを様々な炎症性サイトカインで刺激を行った処、IL-22のみにおいてSLURP-1の発現増加が確認された。IL-22はケラチノサイトの増殖や上皮の肥厚を制御するだけでなく、Defensinなどの抗菌タンパク質の産生を誘導することが報告されている。そこで,SLURP-1タンパクを精製し、その抗菌活性を検定した処、黄色ブドウ球菌に対して抗菌活性を有することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画した通り、SLURP-1タンパクの大量精製系の確立に成功した。また、IMQ塗布による乾癬モデルマウスの系も確立に至っている。現在、SLURP-1の乾癬に対する有効性についてIMQ塗布による乾癬モデルマウスを用いて検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今まで実験に用いてきたケラチノサイトであるNHEK細胞は、初代培養細胞であり、培養に特殊且つ高価な培養液を必要とするだけでなく、増殖速度が遅いなどの使い辛い面があった。そこで、NHEK細胞に代わるケラチノサイトとしてHaCaT細胞を導入した。今後は、HaCaT細胞に対するSLURP-1の効果を検討して行く。また、予定通り、SLURP-1の乾癬への有効性をIMQ塗布による乾癬モデルマウスを用いて検討を行う。更に、SLURP-1がα7ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)のPositive Allosteric Ligandとして機能することが報告されていることから、α7 nAChR選択的アゴニストであるGTS-21についてもIMQ塗布による乾癬モデルマウスを用いて検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
SLURP-1タンパクの大量精製系およびIMQ塗布による乾癬モデルマウスを構築するに当たり、実験が想定していたより遥かに順調に進んだことが挙げられる。また、ケラチノサイトをNHEK細胞からHaCaT細胞に変更することで、高価な培地を大量に購入する必要が無くなったのが理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
我々は既にSLURP-1がT細胞の増殖を抑制することを見出している。一方で、いかなるタイプのT細胞を標的としているか定かでは無い。Th17細胞が乾癬の発症に深く関与していることが報告されていることから、マウス脾臓から調整したTh0細胞をTh1、Th2、Th17細胞に分化させる実験系を用い、SLURP-1がこれらの細胞に対して影響を及ぼすか、増殖やアポトーシス、サイトカインの産生を指標に評価する。Th0細胞をTh1、Th2、Th17細胞に分化させる実験系には特殊な培養液を必要としており多額の予算を要する。この実験に本年度の予算を充当したいと考える。 上記実験以外に予定通り、1) HaCaT細胞を用いたSLURP-1のケラチノサイトに対する作用の検討、2) SLURP-1の乾癬に対する有効性の評価、3) α7 nAChR選択的アゴニストであるGTS-21の乾癬に対する有効性の評価、を行う予定である。
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