研究課題/領域番号 |
15K21373
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
田代 良彦 順天堂大学, 医学部, 非常勤助教 (20636245)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マクロファージ / 単球 / MMP-9 / 急性肝炎 / プラスミン / 線維素溶解系 |
研究実績の概要 |
敗血症など全身性の炎症性疾患において、凝固系の過剰な活性化が組織障害をさらに悪化させるメカニズムが近年明らかになってきている。しかし全身性の炎症性疾患において線維素溶解系(線溶系)がどのように動き、どのような役割を果たしているのかは明らかになっていない。 この研究では、Toll like receptor-9 のアゴニストであるCpG-ODN 1826をD-ガラクトサミンと共にC57BL/6マウスに複数回投与することで、急性肝炎様の病態を誘導する致死的なマウスモデルの作成に成功した。そしてその病態形成の比較的早期から、plasminをはじめとする線溶系と各種MMPs(matrix metalloproteinase)が活性化することを明らかにした。 次に急性肝炎の病態におけるこれらの因子の機能解析を行うため、plasminogen遺伝子欠損マウスおよびMMP-9遺伝子欠損マウスに対して、同様に急性肝炎モデルを作成したところ、これらの遺伝子欠損マウスでは、野生型と比較し、生存率の改善および各種臓器の病理所見で改善を認めた。次にplasminの活性中心を阻害する新規薬剤YO-2の投与による急性肝炎の病態制御を試みた。YO-2の投与によって、TNF-α・Fas-Lなどの各種炎症性サイトカインの産生およびCCL2などの各種炎症性ケモカインの産生は抑制され、生存率を有意に改善させた。またYO-2はplasmin活性阻害を行うことでMMP-9の活性化を阻害していることが明らかにし、各種臓器の病理組織の解析からYO-2が各種炎症性細胞の動員や組織浸潤を抑制していることを明らかにした。 これまで、plasminを始めとする線溶系因子群はフィブリンを溶解する働きとしての側面がよく知られていたが、急性肝炎における線溶系の機能解析は各種炎症性疾患における線溶系の活性化の意義を再認識させるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CpG-ODN 1826およびD-ガラクトサミンのマウスへの複数回投与により、急性肝炎および血球貪食症候群様の病態が引き起こされ、致死に至るモデルが作成できた。そのマウスモデルにおいて、凝固系の活性化だけでなく、線溶系の著しい活性化が見られることを明らかにした。線溶系の主要な因子であるplasminogenやMMP-9の遺伝子欠損マウスを用いてモデル作製を行ったところ、致死的な急性肝炎の病態が改善していること、さらにこの急性肝炎モデルを用いて、線溶系を活性化させる薬剤であるtPAの投与により病態が悪化し、plasminの活性中心を阻害する薬剤であるYO-2の投与により病態が改善することを明らかにした。その機序として、①plasminの活性化が単球・マクロファージの炎症性サイトカインの遺伝子発現を増強させること、②plasminの活性化がMMPsの活性化を介して、炎症性サイトカインの細胞外ドメイン分泌を促進すること、③plasminの活性化が、MMPsの活性化およびCCL2-CCR2シグナルを増強させ、炎症性細胞の組織浸潤を促進すること、が考えられた。上記内容を論文化し、2017年にBlood誌にAccceptされた。 CpG-ODN 1826/D-ガラクトサミンによって誘導されたモデル以外の急性肝炎モデルにおいても、線溶系の活性化の意義について詳細な解析を行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
CpG-ODN 1826/D-ガラクトサミンを用いた急性肝炎モデルにおいて、plasminやMMP-9の産生および活性化を確認しており、そのトリガーとして、血中でtPAやuPAの産生が増加していることが今回明らかになっているが、tPAやuPAの産生が起こるメカニズムを今後詳細に解析をしていく必要がある。また、そのメカニズムの中で、凝固系の活性化(fibrinやトロンビンの産生)も検討すべき課題である。その方法としてはfibrinogenの遺伝子欠損マウスなどを用いて、凝固系の活性化が阻害されているような状況下で急性肝炎がどのような病態を示すのか、その時に線溶系の活性化はどのようになるのか、について解析したいと考えられている。 また、急性膵炎を引き起こすモデルでの解析も行いたい。さらにヒトのサンプルを用いた急性肝炎、急性膵炎における線溶系の病態解析に関しても今後取り組んでいきたい課題である。 今後plasminをターゲットにした新規治療を考えていくにあたって、side effectについてもその可能性について考慮する必要がある。これまでに①MMP阻害剤は筋肉痛や関節痛などの重大なside effectが報告されていること、②plasminが血栓の溶解に重要な役割を果たしていることから線溶系の抑制は血栓症などのリスクが増大する可能性があること、に留意しなければならない。急性肝炎のマウスモデルにおいて、肝臓などの病理像で検討を行ったところ、YO-2投与によって明らかな血栓の増加は指摘できていないが、side effectの有無に関してはより多角的な視点から詳細な解析が必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年度に論文の提出にあたり、今回使用したモデル以外の急性肝炎モデルの作成や凝固系や線溶系のより詳細な検証を行うことまでを予想していた。しかし、リバイス実験が予想以上に少なく済み、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
論文が発刊されたため、今後は国内及び国際学会への参加、発表を次年度に積極的に行う。また、YO-2の副作用や肝臓以外の実質臓器での研究を行い、炎症と凝固、線溶系のさらなる研究のために未使用額をその経費に充てることとしたい。
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