研究課題/領域番号 |
15K21381
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
安田 慎 帝京大学, 経済学部, 講師 (60711653)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イスラーム / ツーリズム / ムスリム観光客 / イスラーム経済 |
研究実績の概要 |
本年度はイスラミック・ツーリズムの進展において重要な役割を果たしてきた欧州における動向を中心に、昨年度に調査を行った中東・東南アジア諸国との比較を行ってきた。特に、欧州において中心的議論となってきたイスラーム金融を中心とするイスラーム経済研究との関連性を機軸に、関係者との議論を行い、動向を調査してきた。 イギリスでは欧州におけるイスラーム金融・経済研究の中心拠点のひとつであるダラム大学イスラーム金融・経済センター(ダラム大学ビジネス・スクール内)主催の国際会議とサマー・スクールに参加することを通じて、世界各国から集ったイスラーム経済のステークホルダーたちとの議論を行うと同時に、教育モジュールやカリキュラムに関わる動向調査を行った。その他にも、イギリス国内各地の観光地におけるムスリム観光客の動向調査を行った。 さらに、タイ・チェンマイにおけるムスリム観光客の動向調査と東南アジアにおけるイスラミック・ツーリズムの動向調査、イランにおけるイスラーム宗教遺産の振興の調査、エジプトにおけるカイロ国際ブックフェアにおいてアラビア語、英語の関連文献の収集を行った。 一連の調査を踏まえ、欧州においてはイスラーム金融の議論を機軸に、イスラーム的価値を反映させた資金の流通によってイスラミック・ツーリズムに関連するプロジェクトを推進する動きが見られる一方で、東南アジアでは強いハラール産業育成との関連が低い点が明らかになった。さらに、これらの資金流通のイスラーム的あり方を通じた市場規範形成を通じて、イスラミック・ツーリズムがイスラーム金融・経済研究における重要な事例を提示する可能性があることも確認した。 その他に、ダラム大学イスラーム研究所とタイ・チェンマイ大学において、本研究に関連する発表を行い、関係者との議論を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度までに実施した中東・東南アジア諸国における調査において明らかになった点を参照軸にしつつ、イスラミック・ツーリズムの発展において重要な役割を果たしてきた欧州における動向を加えることで、それぞれの社会状況に応じたイスラミック・ツーリズムにおける市場規範形成の戦略を、立体的に提示できるようになった点で、当初の計画よりも進んでいるといえる。特に、欧州におけるイスラーム金融・経済の議論を加えたことで、これまでのイスラミック・ツーリズム研究のなかでは基礎的な要素であるにも関わらず、あまり着目を集めてこなかった「イスラーム的に正しい、市場における資金流通のあり方」をめぐる動向の重要性を指摘できるようになった点にある。これは、マーケティング戦略とハラール環境整備の有無という近視眼的な議論に終始しがちだったイスラミック・ツーリズムの議論の幅を広げる一助になると考えている。さらに、イスラーム的正当性を担保する際の社会的企業や、中間支援組織の役割を、さらに説得的に可視化できる点を期待できる。 研究成果においても、『イスラミック・ツーリズムの勃興 宗教の観光資源化』(ナカニシヤ出版)を平成28年4月に刊行し、イスラミック・ツーリズムの基本的理念や市場形成の動向を提示し、当該研究の参照軸となる基本書となる評価を得るに至っている。さらに、前年度までの研究成果を国際会議において発表するだけでなく、国際学術雑誌への投稿を行い、次年度(平成29年度)における成果公表への目処が当初よりも早い段階で立っている点でも、当初よりも進展していると言える。さらに、日本アラブ首長国連邦協会における講演会も平成29年7月に実施予定で、社会に対する研究成果の還元と一般への啓蒙活動を行える手はずも整っている。
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今後の研究の推進方策 |
既に単著やこれまでの研究成果を国内・国際会議の舞台において発表すると同時に、次年度においても研究成果の公開を、一般書や辞典項目執筆を通じて進めている。さらに、最終年度にあたる次年度においては国際会議の主催を通じて、これまで研究者が構築してきた国際・国内の研究ネットワークを通じた研究成果の公表と、それらの内容を学術雑誌において公表していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入書籍の為替レートが変動したため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の購入書籍の費用に組み込む。
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