本年度は、これまでの研究成果を踏まえ、イスラミック・ツーリズムにおける社会的企業の持つ役割について概念化を行った。 これまでの研究成果を踏まえ、イスラミック・ツーリズムが従来の「ムスリム観光客のハラール意識」によって発展してきたという、消費者行動論に基づく本質的・画一的な言説や議論に対して、市場を創造・浸透させる中間支援組織が重要な役割を果たしてきた点を示した。特に、「イスラーム的価値観に基づいた観光活動」という社会的目的と経済的採算性を両立させようとする「社会的企業」としての性格が、市場に関係するステークホルダーのネットワーク形成や市場規範形成に重要な役割を果たした点を明らかにした。 他方で、イスラミック・ツーリズム市場における中間支援組織間や利害関係者との理念や活動をめぐる考えの違いが、市場内での様々な軋轢を生み出してきた点も明らかになった。しかし、それをまた解決するためのコンセンサス形成の場としても、これらの中間支援組織が機能している点で、「社会的企業」としての性格を充分に担い、市場のなかで機能している点を明らかにした。その点、これまでは議論されることの少なかった宗教的理念に基づいた社会活動が、観光活動においても重要な役割を果たしえる点が、本研究を通じて明らかになった点で、今後の研究の進展の一助となると考えている。 研究成果の公表では、2016年度に刊行した『イスラミック・ツーリズムの勃興 宗教の観光資源化』の受賞を通じて、国内への研究成果の還元も行った。さらに、関連する国際学会や国際ワークショップにおける発表に加え、英語論文の刊行を通じて研究の公表を行って、国際的な研究成果の還元も行った。なお、本年度開催する予定であった国際ワークショップについては、申請者の勤務校における学務業務日程と、参加予定者の日程の関係で調整がつかなかったために行わなかった。
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