研究課題/領域番号 |
15K21386
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
関谷 佐智子 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (00398801)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 再生医療 / 腎線維化 / ドラックデリバリー / 細胞シート |
研究実績の概要 |
慢性腎臓病(Chronic renal disease: CKD)は、不可逆的な腎線維化が生じ、腎移植もしくは透析治療が必要な末期腎不全へと進行する。末期不全腎治療としての腎移植および透析治療法の改善・改良が行われる中、近年の科学技術の発展により、腎不全治療の新しい選択肢となりうる新規治療法開発が期待されている。以前より、不全腎の治療法開発研究としてサイトカイン投与による腎機能維持、腎線維化抑制効果が検討されており、特にHGFにおいては、VEGFによる血管内皮細胞の増殖促進効果の増強などの血管新生促進効果から、遺伝子治療薬として臨床応用が検討されている。一方でHGFは半減期が短いことから蛋白投与による効果を観察するには一定時間毎の間欠的静脈内投与や、遺伝子導入による投与が必要となるため、局所的・持続的なHGFの投与法開発の必要性が指摘されていた。他方で近年、生体外で組織工学的手法を用いて細胞から組織を再構築し、移植することで治療効果を増大する再生医療が注目されて、組織工学技術の一つ、細胞シート工学技術での細胞シート移植は高い細胞生着率を示すため、標的臓器への細胞分泌物質の局所的、持続的に投与する手法として有用である。そこで、本研究では遺伝子導入により、HGF発現細胞シートを作成、腎線維化モデルへ移植することで腎へのHGFの局所・持続投与を行い、腎線維化抑制、及び組織保護効果を検証することを目的としている。現在までにHGF発現細胞シートによる高い腎線維化抑制効果が観察されており、腎表層から浸潤したサイトカインによる腎組織保護効果が示唆されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに細胞シートによる腎線維化の抑制効果など、初年度に予定してた計画はほぼ遂行されているが、その結果、次年度(28年度)に予定している計画に困難な部分が想定されている。まず、一側尿管結紮術後の尿管開放が、尿管が高度に閉塞するために困難であること、また、線維化発生段階によって移植時期を変化させる検討においても、一側尿管結紮術を行うことで、大きく周囲組織との癒着が生じ、細胞シート移植の難易度が上昇することが懸念される。また、HGF蛋白は翻訳後に構造を変化させて、生物学的活性が生じるため、GFPなどの大きなタグを付けることがその活性に影響を与えることも懸念されている。そのため、現状、概ね順調だが、今後の進行は計画を修正していく必要が考えられている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は腎線維化の抑制効果を観察後、腎線維化の段階的な抑制効果の検討が課題となっている。現在採用しているUUOモデルでは線維化の進行が非常に早いため、線維化の進行のUUOより緩やかで、しかしながら研究可能なレベルの進行が観察される、カルシニューリン阻害剤(免疫抑制剤)による線維化モデルを採用する予定である。これにより、モデル作製による癒着は防ぐことができ、段階的移植が可能となると考えられ、またクレアチニンなどの血液、尿の変化も解析可能になることが予想される。また、HGF発現の持続期間、および局所分布の解析は、タグを付けることが難しいため、模擬的に免疫染色等で可視化可能なレベルのHGFの腎表面からの投与実験による腎臓内の分布と速度を算出し、細胞シート移植時からどの程度で作用するかを推定する。また、移植後長期に観察、rat腎組織内のhHGF蛋白を免疫選染色を行うことでは発現の持続を確認する予定である。さらに、HGF遺伝子導入細胞シートでは、臨床応用へのハードルが高いことが想定されるので、HGF発現を行っていることが多数報告されている間葉系幹細胞の細胞シートによる腎線維化抑制効果の検討も行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の研究遂行中に一側尿管結紮術による腎線維化モデルでは、線維化の進行度に応じた細胞シート移植が、線維化進行速度が非常に早いこと、モデル作製作業での癒着惹起などで困難であることが懸念された。そこで、腎線維化モデルを免疫抑制剤のカルシニューリン阻害剤を用いることで、薬剤にて誘導し、移植時まで個体を切開手術することなく線維化を誘導する系にすることを考えた。そのため、次年度は腎線維化モデル確立と細胞シート移植実験を行うことを想定している。また、最終的には臨床応用への方向性を見出すために、HGF蛋白の発現が多数報告されている間葉系幹細胞を用いた細胞シート移植による線維化抑制効果も確認の必要性がある。従って、初年度での成果をもとに計画を見直し、次年度の予算の変更を行った。
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次年度使用額の使用計画 |
HGF発現細胞シートによる腎線維化の抑制効果は十分に確認されたので、同種の間葉系細胞シートによるカルシニューリン阻害剤による腎線維化モデルの病態進行抑制効果を検討予定である。移植後の細胞シートのトレースはGFPトラスジェニックの個体からの間葉系幹細胞の採取にて確認を行う。また、カルシニューリン阻害剤による腎線維化の場合は尿や血液の採取により腎の機能を観察可能であることから、随時クレアチニン・尿素窒素などの測定をし、腎病理との兼ね合いから線維化進行レベルを確認する。各々の線維化レベルでの細胞シート移植による腎線維化抑制効果を確認する。HGFの追跡実験はHGF高発現細胞シートを移植直後からの腎表層からのHGF浸透状態を数日間確認し、可能であればヘパリンに親和性無い同程度の分子量の蛋白での比較、筋組織などの他臓器での表層からの浸透との比較を行い、腎への直接移植投与の重要性確認を検討する。
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