研究実績の概要 |
慢性腎臓病(Chronic kidney disease:CKD)では徐々に不可逆的な腎線維化が生じ、腎移植もしくは透析治療が必要な末期腎不全へ進行する。近年、再生医学の発展により、腎事態の再生能力に着目し、末期腎不全になる前に腎臓病悪化を抑制する腎保護治療の開発が活発になっている。サイトカイン投与による腎機能維持、線維化抑制効果の検討はこのような開発に含まれ、EGF, HGF, BMP7などの効果が報告されている。特にHGFは、血管新生促進効果に着目され、遺伝子治療での臨床応用が検討されているが、腎線維化抑制効果においても、注目されている。しかし、サイトカイン投与は他の臓器での消費等で半減期が短く、腎臓へ有効量が届きにくいことが臨床応用の課題となっている。他方で、近年組織工学的手法を用いて細胞を2次元シート状の組織構築を可能とする細胞シート工学が開発され、細胞移植法として高い生着率を示すため、様々な細胞移植治療の臨床応用が実現している。そこで、本研究ではHGFを発現する細胞を用いて細胞シートを作製、HGF発現細胞シートとして腎線維化モデルへ移植し、腎線維化の抑制効果の検討を行っている。これまでに腎線維化モデルでの効果的な線維化抑制効果が得られており、さらに、シートからのHGF発現量を高めても効果に大きな違いはみられず、細胞シート移植では最低限のHGF投与で非常に効果的であることが示唆され、多臓器への影響を最小に出来る可能性が考えられている。また、細胞シート移植時期は腎障害発生初期であるほうが線維化抑制効果が得られ、その効果は血管拡張と血流保持効果が作用機序である可能性が考えられた。今後はHGF発現細胞として臨床応用の可能性の高い間葉系細胞を用い、線維化への効果を検討していく予定である。
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