末梢神経損傷によって中枢神経回路の改編が起きるが、本研究ではその改編過程を観察し、どの回路が改編もしくは活性化されているのかを調べてきた。 c-Fosを用いた免疫組織化学染色、および内因性シグナルを用いたin vivoイメージングにより、げっ歯類マウスのヒゲ感覚神経損傷により大脳皮質のdysgranular領域が活性化すること、その領域が痛覚受容に関与していることを示してきた。一方で、Krox20-Ai32マウスを用いて触覚経路のみを光刺激することにより、末梢神経が損傷されても中枢側の経路は退縮せずに残存していることも確認した。 大脳皮質S1 granular領域においても痛覚に応答する細胞があることは、すでに知られている。そのため、末梢神経損傷によって中枢神経回路の改編が起き、dysgranular領域が活性化することが痛覚閾値を下げるのか、もしくはgranular領域に至る経路が残存していることが痛覚閾値を下げるのか不明である。 そこでdysgranular領域とgranular領域のどちらが痛覚受容に関与するのかを明確にするため、電気生理学的な検証を行った。S1 granular領域とdysgranular領域の同時記録を行い、ペルチェ素子を用いた熱刺激を与えた際にどちらの領域が活性化するのか、ピエゾ素子を用いた触刺激を与えた際にどちらの領域が活性化するのかを調べた。その結果、痛覚刺激である熱刺激に応答する細胞はgranular領域よりもdysgranular領域により多く存在することを確かめた。 これらの結果は、末梢神経損傷によりdysgranular領域に至る経路が活性化することで痛覚受容が活性化していることを示唆している。
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