本研究課題では内皮間葉分化転換(EndMT)の調節シグナルとして複数のシグナルを見出したが、主にTNF-αシグナルに着目して解析を行った。 まず、ヒト臍帯動脈内皮細胞(HUAEC)にTGF-βを添加して培養したところ、間葉系細胞マーカーであるSmooth muscle 22 α(SM22α)の発現が上昇し、EndMTが引き起こされることが示唆された。 TNF-α単独を添加してもSM22αの発現は変化しなかったが、HUAECにTGF-βならびにTNF-αを共添加したところ、SM22αの発現はTGF-β単独を添加したときよりも顕著に上昇した。次に、この作用の分子メカニズムを探ったところ、TGF-β単独の作用としてTGF-βのI型受容体ALK5の発現上昇や培養上清中へのTGF-βリガンド様活性の増加が見出されたが、これらの作用はTNF-αの共添加により顕著に亢進していた。またこの結果として細胞内シグナル伝達因子Smad2のリン酸化が亢進していることが見出された。さらにTGF-βリガンド様活性を増加させる因子として潜在型TGF-βの活性化に関わるインテグリンの発現がTGF-βおよびTNF-αの共添加により顕著に亢進しており、このインテグリンの発現をsiRNAによって低下させると、TGF-βリガンド様活性は増加しなくなり、この作用がキャンセルされた。以上の結果はほかの内皮細胞においても同様に引き起こされることが見出された。 以上のことから、TNF-αは内皮細胞においてTGF-βシグナルを亢進させることによりEndMTを亢進することが示唆された。
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