研究実績の概要 |
細胞運動は,癌の転移などの病理学的な現象にも関与し, 細胞外マトリクス(ECM)の力学的特性がその挙動に大きな影響を与えることが明らかとなっているため,弾性を自在に制御できる細胞培養基材を開発して足場の力学的影響について研究することが重要な意味を持つ。本研究は, 近赤外(NIR)光刺激によって弾性を制御可能なゲルを開発し、このゲルを細胞培養基板に用いて、ゲルの弾性が細胞運動に及ぼす影響を観察することで, ECMの弾性が細胞移動現象に与える影響を明らかにすることを目的としている。本年度は, NIR光刺激応答ゲルの作製に向けて, NIR励起が可能な希土類含有セラミックスナノ粒子の合成を行った。粒径がそろったナノ粒子を得るために,熱分解法を用いて平均粒径60nmの希土類含有セラミックスナノ粒子を合成した。得られた希土類含有セラミックスナノ粒子にNIR励起光を照射したところ, 強い可視アップコンバージョン発光を示した。またセラミックスナノ粒子が含有する希土類イオンの種類や濃度を変化させることで, 様々な発光波長を観察することができた。さらに, 合成した希土類含有セラミックスナノ粒子の表面に生体機能性ポリマーを固定することで, 水中でも分散可能なナノ粒子を作製することもできた。これらの結果から, 光応答性ゲルの作製に向けて, NIR光励起が可能な希土類含有セラミックスナノ粒子の作製に関して, その粒径制御や発光特性の制御における重要な知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたNIR光刺激によって弾性を制御可能なゲルの開発に向けた前段階として,ゲルの架橋点となる希土類含有セラミックスナノ粒子の合成を行った。粒径が小さく、また分布が狭いナノ粒子を得るために, 熱分解法を用いて粒子を合成した。この結果, 平均粒径が60nm程度でほぼ均一なナノ粒子を合成することができた。また, 粒子の特性を評価しやすいため,可視のアップコンバージョン発光を示す希土類イオン含有率でナノ粒子を合成したところ, 実際にNIR励起光下で強い可視発光を示すことが確認された。さらにその発光波長は希土類イオン含有量を調整することで制御可能であり, ゲルの架橋点に用いる前段階として, 重要な知見を得ることができた。以上を踏まえると, おおむね順調に進展していると考えらえる。
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今後の研究の推進方策 |
4 アームのPEG鎖の各末端に活性エステル基を有するポリマーとPEG鎖の両末端にアミノ基を有するポリマー, 希土類含有セラミックスナノ粒子を混合することで, 光応答性ゲルを作製する。さらにそのゲル表面にコラーゲンを修飾し, 細胞接着性を付与することで, 細胞培養基板への応用を試みる。また応用展開として, 希土類含有セラミックスナノ粒子の近赤外発光を用いて、小動物のin vivoイメージングや温度センシングを行う。
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