細胞の運動性は癌の転移などにも大きく関与することから、細胞外マトリクスの力学的特性が細胞運動に与える影響が注目されている。本研究は、生体に低毒性な近赤外(NIR)光刺激によって弾性を変化させることが可能な足場を開発し、この足場上で細胞を培養することで、NIR光照射によって弾性が変化する足場の上における細胞運動の変化を観察することを目的としている。本年度は、NIR光に応答して弾性が上昇する「光硬化性足場」を構築するために、NIR励起・可視発光が可能な希土類含有セラミックスナノ粒子 (アップコンバージョンナノ粒子)を用いて、NIR光照射によるポリマーの光重合を検討した。溶媒中で希土類含有セラミックスナノ粒子とモノマーとしてスチレン、光重合開始剤を攪拌、混合し、近赤外光を照射したところ、希土類含有セラミックスナノ粒子近傍においてポリスチレンを重合することができた。この結果から、光応答性の足場材料の作製に向けて重要な知見を得ることができた。さらに、この希土類含有セラミックスナノ粒子のアップコンバージョン発光を利用して、可視光に応答する光増感剤を刺激することで、希土類含有セラミックスナノ粒子上から一重項酸素を発生させ、がん細胞を効果的に死滅させることにも成功した。これらの結果から、この希土類含有セラミックスナノ粒子のアップコンバージョン発光は、細胞培養基板の弾性制御のみならず、がん治療技術や診断材料への応用展開も期待することができる。
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