本研究では,安価で汎用性に富む市販の合金基板に,穏和な熱処理により酸化物ナノ触媒層を自己形成させることで,既存の煩雑なプロセスに比べて簡易な新規の常圧触媒調製プロセスを開発し,自己形成触媒の(i)電気化学的なグルコース酸化能および(ii)カーボンナノチューブ(CNT)の生成触媒能を評価することを目的としている. (i)については,NiとCuの合金であるモネル(Monel400)について,熱処理条件を最適化し,アルカリ性条件下において,ミリアンペアオーダーの大きいグルコース酸化電流密度を得た(グルコース濃度:10 mM).熱処理基板について,X線光電子分光法(XPS)による表面分析からは,特に基板の第二成分であるCuが表面に析出し,Cu酸化物が電気化学的なグルコース酸化触媒として機能していることが示唆された.オージェ電子分光法ではCuとNiに着目し,熱処理による基板表面での析出をそれぞれの元素についてマッピングし,可視化を試みたところ,XPSの結果と同様に主にCuが(酸化物として)表面に析出していることが確認され,また,筋状に方向性を持って最表面に分布していることが示された.この析出の特徴は,合金基板の製造時における圧延の方向性との関係が推測され,考察を進めている. このように,化学的に安定な母材(市販合金)の表面に簡易な熱処理により組成中の特定の成分を自己析出させることで,グルコース酸化触媒を始めとする種々の触媒としての活用を見据えた,新しいタイプの触媒開発の可能性が示され,現在論文の作成を進めている. (ii)については,合金基材としてステンレス鋼のメッシュを用い,プレート基板の場合の最適条件と同様の熱処理を施すことで,メッシュを構成するワイヤーの表面に放射状にCNTを高密度成長させることに成功した.各種電極材料としての応用も検討している.
|