平成30年度は、①障害者雇用状況の情報開示請求により得られたデータに関する追加的検証を行う、②障害者教育の政策評価について必要となるデータや質問項目について先行研究および自分の研究を概観し、国際比較調査に障害者のデータを含めて活用する際に必要となる知見をまとめる、④理論的に性能の良い福祉指標(財貨の大小関係を反映しつつ、各人の選好評価を最大限に反映した福祉指標)に関する可能性定理・不可能性定理を論文にまとめる、⑤潜在能力アプローチに基づく分配のあり方の公理的な特徴づけの後継研究を論文にまとめる、といった作業を行なった。 その結果、各研究について一定の前進があり、国際学会報告や論文にまとめる形での成果を得ることができた。具体的には、①障害者雇用における法定雇用率の達成および障害者雇用の推進において特例子会社制度は重要な役割を果たしているが、それが障害者と非障害者の職務・職場の分離をもたらしている可能性が高いこと、②従来の先行研究で言われてきた障害者雇用率の達成が株価を下げるという知見は単なる偶然の可能性が高いこと、③各人の潜在能力集合を極大化するという形で福祉の平等を促進するアプローチには均質化が強く働くため、異なる利用能力をもった個人の多様な生を評価できないこと、④性能の良い福祉指標のクラスとして、(a) 各人の豊かさを各人の消費する財貨ベクトルの最低評価に基づいて判定する方式(すなわち、誰の目から見ても個人iは最低でも〇円以上の生活水準にあるという形で判定する方式)と (b) 各人の豊かさを各人の選好の中で中位評価をもつ個人に判定させる方式(すなわち、中位の評価基準をもつ個人の選好によって各人の消費水準が順位づけられる方式)、の二つの方法論があることを理論的に解明した、といった成果を得た。
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