小脳皮質の顆粒細胞層が特異的に傷害されることは,水俣病の病理において未解決な主要問題の一つである。小脳においてもメチル水銀中毒初期に大脳と同じく浮腫形成が認められるが,顆粒細胞層特異的な病変形成を「浮腫形成に伴う循環組織障害」だけでは十分に説明することは難しい。メチル水銀中毒ラットの小脳の病理組織学的な解析は,顆粒細胞層に細胞傷害性T-リンパ球およびマクロファージが浸潤し,顆粒細胞がアポトーシスを起こしていること示した。すなわち,メチル水銀による小脳顆粒細胞層の傷害に炎症性細胞が関与することが示唆される。このメカニズムを“炎症仮説”と名付け,培養細胞を用いてこの仮説の分子的基盤を明らかにした。
|